第193話 邪推したくもなる
先ほど、レミリネ師匠の剣術指導を終え、今はフウジュ君とともに沈みゆく夕日を眺めながら学園都市に向けて空の旅。
そして俺の右手にはタピオカミルクティー。
やっぱダンジョン前の屋台通りって、どうしても前世のお祭り感覚があるからさ……
そうすると、俺の中でタピオカはお祭りってイメージが強いからね、見たら飲みたくなっちゃうんだよ。
そんなことを思いつつ、レミリネ師匠との稽古を思い返す。
レミリネ師匠の剣をしっかりとものにする……シュウの奴にいわれたからというワケでもないが、気合を入れて、レミリネ師匠の全てを受け入れるつもりで稽古に励んだ。
それとレミリネ師匠は、魔纏により俺がそう簡単に致命傷を受けることがないと認識しているようで、ほかの冒険者に対するような手加減なしで稽古を付けてくれている。
まぁ、稽古開始時はゆっくりと丁寧な動きで型稽古感があるが、時間の経過とともにそれが徐々に実戦的な動きとなり、最後は物凄く激しいものになる。
正直、「魔纏がなければ死んでいた……」と何度思ったことか。
とはいえ、注意深く見ればわかることだが、実はレミリネ師匠の剣は刃引きしてあるのだ。
そのため、よっぽど当たり所が悪くなければ、まず死なないだろう。
というかそもそも、レミリネ師匠の技量なら寸止めも可能な気がするし。
ああ、でも、今までレミリネ師匠に挑んだ冒険者たちは、武器や防具を破壊されたり、骨折等の怪我はさせられたりしているみたいだから、あんまり寸止めをする気はないのかもしれないね。
ただ、レミリネ師匠に挑んで殺された奴は今のところいないみたいだから、やっぱかなりの手加減はしてたんだろうなぁという感じではある。
そう考えると、モンスターとしての意識より、レミリネ師匠自身の意識が勝っているということなのかな?
それとも、ダンジョンさんサイドにそこまで殺意がないのか……
そこでふと思ったけど、レミリネ師匠の剣が刃引きしてあるのって……国とか騎士団の連中からの嫌がらせとかじゃないよな?
まぁ、材質は魔鉄だったから魔力を込めれば殺傷力を高められるし、最悪棍棒みたいな打撃武器にはなるだろうけどさ……
まさかとは思いたいが、あの国のレミリネ師匠に対する仕打ちを考えるとな……邪推したくもなるというものだ。
そんなふうに考えを巡らせているうちに、学園都市に到着した。
とりあえず、男子寮の自室にささっと移動してシャワーだな。
そして、シャワーを終えたら夕食!
腹内アレス君が「タピオカミルクティーだけじゃ、腹の足しにならん!」とおっしゃっているからね、速やかに食事といこう。
そうしてロイターとサンズに合流し、楽しい夕食時間の始まりだ。
「そういえば、野営研修の結果発表を見たが……ロイター、あの薬草の数はお前の仕業だな?」
「ああ、見張りのときのやつだな。お前がやっていたのを見て、真似してみたのだが……思いのほか面白くてな、ついつい夢中になってしまったものだ」
「やはり」
「だが、私だけじゃないぞ? 見張りの順番が私の次だったファティマさんもやっていたみたいだからな」
「そうか、まぁ、そんな気もしていたから特に驚くことでもないが」
「僕とパルフェナさんはやっていませんでしたね……というか、そんなことをしていたとは今日まで知りませんでしたし」
そういいながら、少し拗ねたような表情を見せるサンズ。
「……サンズよ、そういう顔はメンズの前でしても意味がないぞ?」
「え!? そういう顔っていわれましても……」
「ふむ、サンズも何気にあざといところがあるからな……もっとも、それを私たちの前でしても意味がないということには同感だ」
「サンズよ、やるのならば包容力のありそうな女性の前でだ、わかるな?」
「アレスさん、もしかしてですけど……僕をアレスさんの趣味に引き込もうとしてませんか?」
「はて……なんのことだ?」
「アレスさん、それって本気でいってます?」
「もちろん」
「アレス……お前が年上好きだというのは、まあまあ有名な話だぞ?」
「ふぅん? そうだっけ」
まぁ、俺ってお姉さん相手だとナチュラルに態度が変わってしまうからな。
それに、前もそんな感じのことをその辺の小僧にいわれていたような気もするし。
「反応が軽い! まったく……ファティマさんが不憫でならん」
「そ、それは、その……いや、お前こそどうなんだ?」
「お前に勝利してファティマさんを振り向かせたいという気持ちに変わりはない……だが、お前がファティマさんのことを幸せにすると誓うのなら……誓うのなら! 涙を呑んで引き下がるべきか……とも思っている」
……今の俺にそれを誓うのは無理だろうな。
「まぁ、そうはいうもののやはり! お前を超えてファティマさんを私に振り向かせるつもりだがな!! といって、この前のように勝ちを譲るなんて真似をもう一度したら許さんからな!!」
「ああ、もうしないよ」
「フン、当然だ!」
「お2人とも、気合も高まってきたようですし、そろそろ運動場に移動しましょうか」
「おっ、そうだな」
「よし!」
こうして夕食を終え、模擬戦に向かうことに。
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