第192話 微笑み
学園都市を出発して、今はフウジュ君とスケルトンダンジョンに向かって空の旅をしている。
もちろん、レミリネ師匠と脳内模擬戦を繰り広げながらね。
メガネのいっていた、俺の剣にレミリネ師匠の剣が宿っているというのは、もしかするとこの脳内模擬戦による部分もあるのではないかという気がした。
レミリネ師匠と出会ってから、記憶にある限り……イメージできる全てを脳内で反芻しているわけだからな、なくはないのではないか。
ま、その動きを脳内だけではなく、身体操作として表現できなきゃ駄目なんだろうけどさ。
そしてメガネのことだが、なんとなく今まで「武術オタクのメガネ」もしくは短く「メガネ」と心の中で呼んでいた。
しかしながら、今回はアイツにとても世話になったわけだから、そろそろ名前で呼んでやるべきかもしれん。
それでえ~と、確か「シュウ」って名前だったよな……
とはいえ、「武術のオタクのメガネ」って呼び方、実はちょっと気に入ってる部分もあるんだよね。
しかもやっぱ、アイツにとってメガネがトレードマークって感じもするしさ、本人としてもアイデンティティを感じてるんじゃないかな?
う~ん、そうだなぁ……とりあえず、口に出して呼ぶときはちゃんと名前で呼んで、心の中ではそのときの気分に任せればいっか!
そんなことを考えているうちに、ダンジョン前の屋台通りに到着。
フッ、これでも飛ばしてきたわけだからな、すぐ着くのさ!
そうして、ギルドの出張所へ向かって歩いているときのこと。
「アレッサン、チャッス!」
「コンチャッス!」
「コンチス!」
「おう」
スケルトンダンジョン探索をメインの活動場所としているらしき冒険者3人に挨拶をされたので、返事をしておいた。
よくわからんが、俺がレミリネ師匠から剣術指導を受け始めてしばらく経ってから、こういうことが増えてきたのだ。
特に彼らに名乗った記憶もないのだが……
まぁ、学園都市のギルドで見かけたことがあったかもしれないと思う冒険者もこのダンジョンに来ていたりするので、出所はそこかなって感じではある。
ああ……俺がギルドのお姉さんと話しているときに聞こえてた可能性もあるか。
とりあえずそんな感じで、ほかにも何度か冒険者たちから挨拶をされながらギルドの出張所に着いた。
よかった、今日はギルドのお姉さんがいてくれて……
まあまあの頻度で、態度の悪いギルド職員の男もいるからさ……
なんというか、野営研修を適当に過ごした学園の生徒たちも将来、そんな感じにならなければいいんだけど……なんて思ってみたり。
「おう! アレス!! 今日もまた、あのやたらとつえースケルトンナイトに挑戦か?」
「はい、そのつもりです」
「ハハッ! 一目見ておもしれ―ヤツだろうとは思ってたけど、ホントにおもしれ―ヤツだな、オメーはよ!」
「恐縮です」
「それにオメー、最近はなかなかの人気者じゃねーか!」
「そうですねぇ……いつの間にか挨拶をされるようになってたんですけど、あれはなんなんでしょうかね?」
「なんだ、知らねーのか。冒険者どもの話だとな、オメーがやたらとつえースケルトンナイトの相手を毎日引き受けてくれるおかげで、奴と出くわす心配なくダンジョン探索ができるんだと。あれはその礼みてぇなもんだろーな」
「なるほど、そういうことでしたか」
「まぁ、勝てねぇ相手を避けようとするアイツらの考えも正しいが……それを少しばかり寂しく感じちまうのも正直なところではあるな」
「……その分、私が挑戦しますよ!」
「フフッ、そうだな! まっ、そんなわけだから、今日もしっかり頑張ってこい!!」
そういってギルドのお姉さんから背中にバシッと気合を入れてもらい、ダンジョンへ向かう。
目的地は当然、俺とレミリネ師匠にとって既にお決まりの場所と呼べる空き地。
そこに到着したとき、今日もレミリネ師匠の視線はどこか遠いところへ向けられていた。
その視線の先には何が見えているのだろうか……
その想いは果たして……
そしてレミリネ師匠は、ゆっくりとこちらへ向く。
そのとき、なんとなくではあるが、微笑むレミリネ師匠が見えた気がした……
骨だけの顔にそんなものが見えるはずないだろうと思われるかもしれないし、気のせいだろうといわれたら、そうかもしれない。
だが、その微笑みは、暖かく優しかった。
それだけは、確かなことといえる。
そうして、レミリネ師匠はいつもどおり剣を構える。
「師匠! 今日もよろしくお願いします!!」
ここでなぜかはわからないが、ふとレミリネ師匠の名前を呼ぶのは、俺がもっと剣士として成長してからのほうがいいのではないかという気持ちが湧き起こった。
だから今は「師匠」とだけ呼ぶ。
そして意識を戦闘モードに切り替え、全ての集中力をレミリネ師匠へ向ける。
「それでは……参ります!!」
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