第177話 光属性

 ダンジョンの入口を通過すると、そこには城下町といった雰囲気の家々が立ち並んでいた。

 ただし、スケルトンダンジョンにふさわしく廃墟ばかり。

 この街が一つのダンジョンになっているわけか、なるほどね。

 一応、原作ゲームでこのダンジョンも経験はしているが、実際に足を踏み入れるとまた違った感慨が湧いてくるというものだ。

 そして、ここからも見えるデッカイ城、あそこにボスがいるってわけだね。

 まぁ、なんだかんだいっても単なる一つの街だからね、最短距離を目指せば確かに、一日で攻略も可能だろうなって気がしてくる。

 とはいえ、今回の俺の目的は古流剣術の使い手であろうスケルトンとの戦闘経験を積むことだ。

 急いで攻略する必要もあるまい。

 というわけで、スケルトンを探しつつ、ロマンを求めてじっくりと街の探索をさせてもらおうかな。

 ああ、そうそう、串焼き屋のあんちゃんが光属性を推してたからな、普段はなんとなく無属性で展開していた魔纏を今回は光属性にしてみるか。

 周囲がまぶしくならないよう、明るさに気を付けてっと……これでよし。

 さて、それじゃあ、探索開始といこうか。

 ……にしても当然のこととはいえ、廃墟ばっかりだ。

 あっちに見える家なんか、今にも倒壊しそうだよ?

 ……実際そうなったらどうなるんだろう……ダンジョンさんがまた廃墟として建て直すのかな?

 どうせ建て直すのなら、ちゃんとした新築にすればいいのに。

 待てよ……もしかして、ガワだけボロそうで、中身はしっかりした家になってるのかな?

 ……それならもう、セットやん! ってツッコミを入れたくなっちゃうよね。

 それとも、ダンジョンあるあるで、壁やオブジェクトは壊せないってやつかな?

 ……やってみるか。

 そんな思い付きで近くの廃墟を殴ってみたところ……当然のようにバキッと音がして、穴が開いた。

 あ、壊せちゃうみたい。

 しっかし、脆いねぇ。

 そんなことを思っていたら、この廃墟の住人らしいスケルトンが出てきた。

 そりゃあ、知らん奴がいきなり自分の家を殴って穴を開けていたら、誰だって怒るよね。

 ……と思ったらスケルトン、慌ててどっかに逃げてった。

 う~ん? 彼はここの住人ではなく、コソ泥かなんかだったのかな?

 それとも……俺のことを関わったら危ないヤベェ奴とでも思ったのかな?

 まぁ、どう思われようと関係ないんだけどね、戦闘しに来たんだからさ。

 でも、あんなすぐ逃げる奴が古流剣術を習得しているとも思えんしな……ほっとくか。

 それから、やっぱRPGあるあるとしては……他人の家のタンスを漁るってやつかな?

 まぁ、転生してこの世界が俺にとって現実となったから、普段ならそんなことできるわけもないけど……ここはダンジョンだからね、問題はなさそう。

 でも、その辺の民家じゃ大した物もなさそうだよなぁ。

 それにあったとしても、既にほかの冒険者が回収してるだろうし……

 あ、そうだ! 確か原作ゲームだと、廃教会で首飾りが拾えるんだった。

 効果として光属性が付与されているから、スケルトンダンジョン攻略に役立ちますよって感じでね。

 あるかどうか見に行ってみるか。

 そう思い、原作ゲームの記憶とギルドのお姉さんにもらった地図を照らし合わせながら、街中を廃教会に向かって移動する。

 その途中で何度かスケルトンに出会うが、みんな俺の姿を見た途端に逃げ出す。

 ……なんだろう、さっきのスケルトンが「ヤベェ奴がいるから逃げろ!」って触れ回ったのかな?

 まぁいいか、ナイトクラスでもなきゃ役に立たんだろうし。

 そんなことを思いながら歩いていると、廃教会に到着した。

 ふむ……ゲームをプレイ中にはなんとも思わなかったが……こうやって実際に目にすると、なんともいえない趣があるね。

 まぁ、教会独特の雰囲気があってこそっていうのもあるのかもしれないが……

 そんな在りし日の姿に想いを馳せつつ、廃教会の扉を開く。

 中はまぁ、朽ちかけてはいるが、一般的なイメージどおりの礼拝堂といったところか。

 ……へぇ、骨だけとなった今でも、熱心に祈りを捧げるスケルトンたちがいるんだな。

 なんというか、そんなスケルトンたちを見ていると……どういっていいのかわからないけど、妙に切ない気持ちになってくるね……

 そんな想いに浸っていたところ、俺の存在に気付いたスケルトンたちが近寄ってきた。

 特に敵意はないようだが……なんだろう?


「オオオォォ……」

「オオ……オオォ」

………………

…………

……


 そして俺を囲み、両膝をついて一斉に拝みだす。


「えぇ……なんなんこれ……」


 スケルトンたちの意図がつかめず、しばしあぜんとする俺。

 すると、俺を囲むスケルトンたちが一体、また一体とまばゆい光となって消えてゆく……


「わ、わけがわからねぇ……」


 そして最後の一体がカタカタと歯を打ち鳴らして何やらしゃべっているが、あいにく俺にはスケルトン語が理解できない。

 そう思っているあいだにも、最後のスケルトンの体がどんどん光の粒子となって空間に混ざり合い、消えてゆく。


『ありがとう……聖者様……』


 そして消える最期の瞬間、そんな言葉が脳内に響き渡った。


「……ちょっと待て! 俺は聖者様とやらなんかじゃねぇぞ!!」


 そう叫ぶも、既に手遅れ……教会にいたスケルトンたちはみな、光となって消えていった……

 そして最後の一体がいたあたりに、首飾りが一つ残されていた……


「この首飾りって……マジかよ……」


 原作ゲームにはこんな演出なかったぞ……単純に神像の足元を調べたら見つかるってだけだったはずなのに……

 そう思いつつ、確認の意味を込めて神像の足元をチェックしたが何もなかった……


「しかしこの首飾り、何気に光属性強いね……って、まさか! 光属性のせいか!?」


 よくよく考えたら……俺は魔纏を「密度は濃く、そして限りなく薄く」を目標に日々研鑽を重ねていたんだった……

 原作アレス君の膨大な魔力量にプラスして、俺の努力が加わった光属性の魔纏……

 ははは……はは……そりゃあ、そんな光属性を纏った男……ノーマルスケルトンクラスからしたら聖者と勘違いしてしまっても無理な話じゃなかったかもしれん……

 たぶんこれ……異世界転生名物、やっちゃいました案件だね。

 それとなんというか……勘違いで昇天させてしまったスケルトンには申し訳ない気もしてくるよ……

 まぁ、勘違いでも……転生神のお姉さんのところに正しく向かえることを祈っておくとするか……それぐらいしか俺にはできんしな。

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