第713話 また少しはっきりとしてきました

『上段からアレス選手の振り下ろし! それをシュウ選手、最小限の動きで躱して反撃につなげます!!』

『鮮やかな身のこなしですね……そして、アレスさんの素早い防御態勢への切り替えも実に素晴らしいです』

『私がアレス選手だったなら少々強引でも、振り下ろしからそのまま連続斬りに移行しようとした気がします』

『そうですねぇ……確かに、勢いに任せて一気呵成に攻めたくなるのが人情というものかもしれません』

『やはり! まあ、そうした感情に流されていないところがファイナリストたるゆえんといったところでしょうね!?』

『でしょうねぇ……そしてこれは両者共にいえることですが、相手の反撃を想定して一つ一つの攻撃が丁寧かつコンパクトに繰り出されているような印象を受けます』

『丁寧かつコンパクト……つまりは両選手とも、今はまだ手堅く様子見の段階というわけですね!?』

『はい、そう見ていいと思います』


 まあ、シュウ相手に不用意な攻撃や深追いは禁物だからね……

 そう考えると、どうしたって威力重視の派手な攻撃は控えることになってしまうのさ。


「あのレベルの攻防で様子見ってか……ホント、信じらんねぇよ……」

「だよなぁ……アイツらが放つ攻撃の一発でも喰らったら、それだけで失神させられてしまいそうだし……」

「なんていうか、僕らとは住む世界が違うんだなって……思わされちゃうよね?」

「ああ、同じ男として認めたくはないがな……」

「とはいえ、俺たち1年男子の最強を決める試合なんだからさ、むしろそれぐらいやってくれなきゃって感じだろ?」

「まあ、それもそうか……」

「とりあえず、この目の前で繰り広げられている光景……これが僕らの目指すべき高みってわけなんだね……?」

「遠いな……」

「うむ……それに我々が上っているあいだ、彼らもさらに高く上っていくのだろうしな……」

「ハァ……並大抵の努力じゃ、追い付けそうもないなぁ……」

「……それでも、頑張んなきゃ! じゃないと、もっともっと離されちゃうもんね!!」


 うぅむ、さすがシュウというべきか……俺が繰り出すどの攻撃も、完全に見切られているようだ……

 ただ、今のところ渾身の一撃みたいなものは出していないから、まだまだこれからって感じではあるんだけどさ。

 まあ、こちらとしては持久力に自信アリだからね! じっくり攻め崩してやるとしようじゃないか!!

 そうして、小手調べのような攻防がしばらく続いたところで、おもむろにシュウが口を開いた。


「ふむ……これまでのアレス君の努力がしっかりと実っているようで、僕の眼に映るレミリネの姿がまた少しはっきりとしてきました」

「な、なんだとッ!! それは本当か!?」

「ええ、本当です、間違いありません」

「よっしゃぁッ!!」


 俺の眼には視えていないのが残念だけど……それでも、レミリネ師匠の姿がまた少しはっきりとしてきただなんて最高じゃないか!

 嬉しい……マジで嬉しいッ!!

 まあ、もしかしたらだけど……俺が日々イメージのレミリネ師匠と模擬戦を繰り返しているのも、なんらかの効果があったのかもしれないよね!!


「……ただし、まだ完璧ではありませんのでね……これからも精進を重ねていただきたいところです」

「ああ、俺だってレミリネ師匠の高みにはまだまだ遠く及ばないことぐらいよく分かっているのだ! であれば、お前にいわれるまでもなく、もっともっと努力を積み重ねていく所存だ!!」

「フフッ……その意気です」

「おう! 必ず……必ずはっきりと視えるようにしてやるからな!!」

「ええ、引き続き期待させていただくとしましょう」


 シュウの奴、わざわざそれを伝えるためだけに武闘大会に参加したとかいわないだろうな……?

 まあ、さすがにそれは自惚れが過ぎるというものかな?

 でも、何よりやはり……レミリネ師匠の剣が俺のものとなってきていると教えてもらって、有頂天とならずにはいられないよね!!


「僕から言い出しておいてなんですが……喜び過ぎにより、集中が乱れているようですね?」

「……おっと! それはいかんな!!」


 とはいえ、多少集中力に欠ける部分があったとしても、魔力をガッチリ込めた魔纏を展開しているので、そう簡単にやられるつもりはないけどな!

 それに、今の話を聞いたことによって俺のテンションが爆上げされたからね! むしろプラスといっても過言ではないぐらいなのさ!!


「な、なあ……お前らは、アイツらの会話が理解できるか?」

「いや、全然……」

「レミリネが視えるって……やっぱシュウも、どっかオカシイってことなんだろうなぁ……」

「もし仮にだよ、本当にレミリネとかっていうスケルトンナイトが魔力操作狂いのそばにいるというのなら……それは憑かれているってことなんじゃないの?」

「……なッ!?」

「そうか……確かに、そうともいえそうだな……?」

「教会の退魔士に祓ってもらったほうがイイんじゃね?」

「つーかさ、光属性の得意な魔力操作狂いなら、自分で浄化の魔法をかければじゅうぶんだろ」

「たぶんだけど……魔力操作狂いに祓えないアンデッドなんていないだろうね……」

「うむ……かの御仁であれば、アンデッドドラゴンですら昇天させてしまいそうな気がする……」


 アンデッドドラゴンか……まあ、ほかのドラゴンと比べれば、ワンチャンありそうな気はするかなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る