第602話 ザ・負け惜しみ

「……やった! やってやったぞ! この模擬戦、勝ち越しだぁ!!」

「はいはい、おめでとう……」

「このくだり、さっきから何回目だよ……いいかげん飽きたぞ?」

「一進一退を繰り返して今日、ようやく勝ち越しを決めることができたのだから、それだけ喜びが強まるのも仕方あるまい……まあ、ちとしつこい気がしなくもないがな……」

「……なんだよぉ? 今年は熾烈な争いだったんだぞぉ? お前ら分かってんのかぁ?」

「うん、僕もその熾烈な争いに参加してたのだから、じゅうぶん……いや、じゅうぶん過ぎるほど理解してると思うよ?」

「まあな……俺だって、昨日なんとか勝ち越しを決めることができたわけだから、似たようなもんだ」

「ああ、そなたも昨日はうるさかったものな?」

「うっ……それをいわれると恥ずかしいぜ……」


 あのグループは全体的に表情が明るいので、おそらく4人とも勝ち越しを決めたんだろうなぁって感じだ。

 そしてこっちは……ああ、さっきビムと対戦した貶しリーダーのグループか……


「チッ……あんなカス野郎なんかに……この俺が……」

「ま、まあ……今日はほら、調子が悪かったんだよ……だからさ……」

「そうそう、ただのまぐれだって!」

「ていうかさ、あんな模擬戦ごときにマジになるとか……ダサくね? そんで、本当に強ぇ奴っていうのはさ、実戦のときにどんだけ力を発揮できるかって話っしょ? だからまあ、今日のところはあのカスにいい夢見させてやったっちゅうことでいんじゃね?」

「………………そうか……ハハッ! まあそうだなぁ……実際、あんなショボいお遊戯会に本気になるのもどうかと思ってたのも確かだからなぁ?」

「そ、そうだよな! いやぁ、俺もよ! あんな実戦なんかに程遠いダセェお遊びにうつつを抜かす奴らがバカみてぇだなって思ってたんだよ!!」

「そうそう! あのビムとかいうカスだって、調子に乗ってそのうち痛い目を見るんじゃねぇの!?」

「ま! 俺らには俺らのスタイルってもんがあるわけだし? その辺のカス共に迎合するこたねぇってことよ!!」


 う、う~ん、貶しボーイズの「ザ・負け惜しみ」って感じが凄いんだけど……

 まあ、ビムに負けて落ち込んでた貶しリーダーが元気を取り戻したみたいだから、それはそれでいいのかもしれないけど……どうなんだろうなぁ……


「そ、それにしてもさ! さっき舐めたことほざいてた女たち……アイツらにはちょっと理解らせといたほうがいいんじゃないか?」

「そうそう! メッチャ調子に乗って、好き放題述べてくれてたもんな!!」

「理解らせるって……おいおい、俺はあんまややこしいことしたくねぇぞ? あとでオヤジにどやされんのもウゼェし……」

「……ああ、そうだな……いちいち構うのも面倒だ……好きにいわせとけ」

「そ、そうか……」

「まあ、そういうんなら……」

「うんうん、そのほうがいいって……誤って顔に傷でもつけちまったら、たとえポーションで治ったとしても、一生恨まれるかもしんねぇかんな!」


 どうやら貶しリーダーは、余計な揉め事を起こすつもりはないみたいだね……賢明だと思うよ。

 だって正直なことをいうと、さっきの女子たち……特に予選突破が確実らしい女子はなかなか強そうだったからね……下手にケンカを売りに行くと、逆に理解らされた可能性すらあったと思うんだ。

 もしかしたら、貶しリーダーはそれをなんとなくでも感じ取っていたのかもしれない。


「……少々遅くなった」

「お待たせしました」

「おお、来たか!」


 ここで、ロイターとサンズが到着。


「それと、ヴィーンたちは今日、中央棟の食堂だ」

「先ほど中央棟に向かうところを見ましたからね……予選も一段落したことで、令嬢たちにお誘いを受けているのでしょう」

「ふぅん、そんでセテルタはエトアラ嬢と一緒って感じかな?」

「だろうな」

「ですね」

「お前らも……よくこっちに来れたな?」

「まあな」

「僕たちは夕食を男子寮で取ることにしている……ということがある程度令嬢たちにも浸透しているようです」

「へぇ」


 まあ、その辺のところを知らずに誘ったりすると、情報収集不足としてアウト判定扱いになるのかもしれないね……


「……それはそれとして、お互い全勝達成おめでとうって感じかな?」

「そうだな……とはいえ、まだまだ通過点に過ぎないが……」

「フフッ、ここからが本番……というわけですね?」

「俺たちは夕食後の模擬戦で何度も対戦しているが、やはり公式戦ともなると趣が違うだろうからな……そう考えると、お前たちとの対戦もまた違った味わいを楽しめることだろう」

「ああ、そのときが楽しみだ……そして、今度こそお前に勝つ!」

「ロイター様……先に僕がアレスさんと対戦することになってもお恨みなきよう、お願いしますね?」

「おやおや、サンズよ……俺に勝てる気でいるのか? それなら俺も、本気でお相手せねばならんかな?」

「ええ、やるからには勝つ気で行きますよ!」

「うむ、あとは組み合わせ次第ということだな……さて、我々のくじ運はどうだろうか……」


 そうなのである、決勝戦は上位16名でトーナメントとなるわけだが、組み合わせはくじ引きで決まるのだ。

 そんなわけで、予選の順位ごとに1位対16位、2位対15位みたいな感じにはならないってことだね。

 というより、今年の1年男子は全勝者がかなりいるので、ほとんど1位タイがずらぁ~っと並んでそうな気もするからね……なおさらくじ引きのほうがいいだろうねって感じ。

 そんなこんなで夕食を食べ終え、お腹が休まったところで運動場へ向かう。

 フッ、予選が終わったからといって、夕食後の模擬戦は休みにならないのさ! それが俺たちクオリティ!!

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