第574話 ちょっと顔つき変わった?

 ビムの初勝利に場内が沸いた。

 とはいえ、同時におこなわれている模擬戦もあるし、その後もすぐ次の対戦が始まる。

 そんな感じでしばらく経てば、ビムの初勝利の興奮も収まっていくことになる。

 まあ、全ての生徒がビムにだけ注目していたわけでもないと思うし、各自で気になる対戦も違うだろうからね。

 ただ、男子の一部は、いまだにビムを囲んでワイワイしているが……


「いやぁ……ホントによくやったよなぁ!」

「俺……なんだか感動しちまったよ……」

「ボク、ビム君に倣ってあの人に挑戦するよ! そして、きっと今より強くなって見せるからね!!」

「いやいや、そんな倣うとか大それたことじゃないよ……それに、これでやっと1勝だからね」

「またまたぁ~謙遜しちゃって、コイツは!」

「うんうん! そういう精神性も見倣いたいところだねっ!!」

「そんで? 勝利を決めた一撃……あれは狙ったのか?」

「う~ん、どうかなぁ……しっかり狙っていたといえば、違うね……なんていうのかな、あの一瞬『ここだ!』っていうポイントが見えたっていえばいいのか……」

「へぇ……そんなん、見えたことねぇけど……」

「ああ、俺もだ……でも、たまにそういう話を聞くし、やっぱあるんだなぁ~」

「たぶん、それが相手の隙だったってことだろうね?」

「うん、そうだったのかもしれない……」


 ふむ、「ここだ!」っていうポイントか……

 それが「観える」ほど集中力が高まっていたって感じかな?


「……でもやっぱり、結局は勘ってことだろ? よくそれを信じて最後の一撃をかませたもんだよな?」

「そうだな……普段の組み立てとは違う動きだったんだろ?」

「確かに……慣れないことをするっていうのは、ちょっと勇気がいるよね……」

「まあ、そもそも僕の動きが全て対策されていたっていうのもあるかな……それでここ最近、僕なりにいろいろと模索してたし……だから、普段と違う動きを試してみるのも、そこまで抵抗はなかったね」

「なるほど!」

「そうか、ダメ元で試しやすい心境になってたってわけだな!」

「うんうん! やっぱりビム君こそが、偉大な挑戦者ってことだねっ!! ますますボクも見倣わなくっちゃ!!」

「いやいや、そんなにおだてないでよ……僕もまだまだこれからなんだからさ……」


 そうだね、「まだまだこれから」っていうのは、まさしくそのとおりだろう……俺も含めてね。

 ビム・インファウ……そして、彼に刺激を受けた者たちがこれからどのような成長を見せるか……とっても楽しみだね!!


「……ケッ! 単なるまぐれに大騒ぎしやがって……まったく、おめでたい連中だ」

「だな! どうせ明日には、またボコボコにやられて大恥かくだろうさ」

「ハハッ、めっちゃウケる! そんときは思いっきり笑ってやろうぜ?」

「どうせなら『これで涙を拭きな!』っていって、ハンカチをプレゼントしてやるか?」

「……ブフッ……そりゃケッサクだ!」

「あ~あ、早く明日になんねぇかなぁ?」


 もしかしたら、そのハンカチ……お前らが冷や汗を拭くために使うことになるかもしれないぞ?

 ……なんて、ビムたちを貶す男子たちに思ってみたりした。

 とはいえ、ビムが繰り出した一撃が偶然だった部分もあるにはあるだろうから、都合よく明日も繰り出せる保証はどこにもない。

 でも、そうやって何度も挑戦して、そのたびに成功したり失敗したりしながら、ビムたちはどんどん高みを目指していくはず!

 だからこそ、偉大な挑戦者なんだ!!

 俺はそういう男たちと高め合いたい……そう心から思うよ。


「……ああいう僻みっぽい男共ってイヤよね?」

「そうよねぇ~頑張ったビム君に『おめでとう』の一言だけでいいのにさぁ~」

「そのビム君だけどさ……ちょっと顔つき変わった?」

「あ、それ私も思った! なんかイケてる感じするよね?」

「きっと、今日の勝利が自信につながったんだよ!」

「まあね、ここまで折れずに闘い抜いたメンタル強者なんだから、そりゃ顔つきも精悍になるでしょ」

「私……早速ビム君をご飯に誘ってみようかな? キャッ!」

「え~! マジ? いっちゃう!?」

「そうねぇ、まだフリーみたいだし……伸びしろもありそうだし……悪くないかもねぇ?」

「う~ん……アタシはまだ様子見でいいや」

「そんなこといってノンビリしてると、ほかの子に取られちゃうかもよ!? そう……私にね!!」

「いやいや、1人で盛り上がり過ぎでしょ……」

「そうはいうけど、周りを見てごらんなさい、彼に熱い視線を向け始めてる子が結構いるわよ?」

「まあ、確かに……」


 どうやら、今日の1勝がビムのモテ始めるきっかけとなりそうだね。

 まあ、明日以降の結果次第では手のひらを返されるかもしれないけどさ……

 しかしながら、また勝てなくなっても信じてついてきてくれる子がいれば……その子こそ、選ぶべき子かもしれないよね!

 とりあえず、いろいろな面においてビムよ……頑張ってくれたまえ!!

 それと、ビムたちを貶してた男子たちよ……お前らが用意するのは自分の悔し涙を拭くハンカチかもしれないな?

 そんなことを思いながら、今日の出番が終わった俺は、引き続き模擬戦を観戦していたのだった。

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