第550話 己の意思

「それじゃあ、朝ご飯を食べに行ってくるよ!」


 そうキズナ君に挨拶をしてから移動し、男子寮の食堂にて朝食をいただく。

 今日も女子からお誘いを受けていないからね、おひとり様生活を満喫できるってわけ。

 そしてたぶん、明日の朝も大丈夫だろうけど……昼ぐらいからは声をかけられるかもしれないね。

 ……あれ? よく考えたら、セテルタというナイスガイがエトアラ嬢とカップリングしたことによって、今までセテルタに向かっていた女子のぶんがこちらに回ってくる可能性が微レ存?

 ということは……もしかしたら俺は、自らの首を絞めてしまったのでは?

 いやいや、でも、あのカップリングは最高だった! 俺の選択に間違いはなかったハズ!!

 ま、まあね……確かに、多少は俺のところに来る女子が増えるかもしれないけど、でも、ロイターみたいな特定の相手がいない男子もまだまだたくさんいるわけだし?

 だ、大丈夫だよ……きっと!

 それに……食事を共にした女子みんなに魔力操作を勧めていって、全体のレベルアップを図るっていうのも意義あることだろう。

 ……ハッ!? もしや、俺はそのためにこの世界に転生して来たのでは?


『転生神のお姉さん! もしかして、この世界の人々に魔力操作を啓蒙するのが私に課せられたミッションなのですか!?』


 ……そう問いかけてみたが、転生神のお姉さんはいつもどおりの慈愛に溢れた笑顔を返してくれるのみ。

 なるほど、そうであるかもしれないし、違うかもしれない……つまり、自分で考えろってことだな……

 フフッ……そういう答えを安易にくれないところが、転生神のお姉さんのありがたいところなのかもしれないね。

 己の意思でもって人生を切り開いていく……おそらく、転生神のお姉さんはそういう俺を求めているのだろう……


「分かりました! これからも私は、日々自分の選択によりこの世界を生きてみたいと思います!!」


 ……そう宣言してみたところ、心なしか転生神のお姉さんの笑顔が深まったようにも見えた。

 まあ、あくまでもそう見えただけで、実際のところは分からないけどね……でも、そういうことでいいのだと結論付けよう。


「魔力操作狂いの奴……いつもどおりのこととはいえ、今日はまた随分と表情がコロコロと変わるなぁ?」

「まあ、それが青春ということなのかもしれないな……」

「っていうか……微妙に輝いて見えるよね?」

「あ、俺もそれはちょっと思った」

「もしかしたら、魔力操作を司る神ってのがいて……それの使徒だったりしてな?」

「えぇ……そんな神の存在、聞いたことないよ?」

「ああ、教会の連中に睨まれるし……滅多なことをいうもんじゃないぞ?」

「そういえば俺の母さんから聞いたことだけど、あの人の母上って、それはもう凄い人だったって話だから……あの人からそんな片鱗が見えるのも当然のことかもしれない」

「まあ、普通じゃないのは確かだな……」

「それに実は、あの王女殿下も一目を置いてるってウワサだしな……」

「えっ! マジ!?」

「マジ」

「っていうか……王女殿下派の始まりがあの人だっていう意見もあるぐらいだからね……そりゃあ、一目も二目も置くだろうさ」

「う~む、そう考えると……やっぱ、魔力操作狂いとお近づきになっとくべきかなぁ……?」

「……そう思うんだったら、まずその呼び方をやめたら?」

「た、確かに……でも、もう慣れちゃったみたいなところがあるからなぁ……」

「安心しろ……とまではいえないが、どうやら彼はその呼び方を気に入ってる説がある」

「え、ホントに?」

「ホント」

「た、助かったぁ……」

「とはいえ、本人から直接聞いたわけじゃないから、実際のところは知らんぞ?」

「そんなぁ……」


 ……大丈夫だよ、俺もそう呼ばれることに慣れてるし、別に嫌じゃないから。

 そう思いながら、彼らに笑顔を向けてやる……そう、転生神のお姉さんのように慈愛溢れる笑顔をね!


「ヒッ!」

「え、笑顔のようにも見えるのに……なぜだろう、こうまで魂にまでズンと響くのは……」

「お前らがアホなことばっかいってるからだろ?」

「やっぱ……聞こえてたのかな……?」

「かもなぁ……」


 うん、バッチリ聞こえてたよ?

 アレス君は地獄耳……よく覚えておこうね?

 そんなことを思いつつ、今日も美味しく朝食を味わう。

 そして、先ほどの彼らとは違うグループの会話が聞こえてくるが……


「そんで……夜会後にあの子とはもう会ったんか?」

「まあね、早速昨日、街でデートを楽しませてもらったよ」

「へぇ? そいつはうらやましいもんだねぇ」

「いやいや、君だって全く令嬢たちから相手にされていないわけじゃないだろう?」

「それはそうなんだが……なんつーか「この子!」って思える子になかなか出会えなくてな……」

「そっかぁ……」

「条件面をクリアした子……それだけでよければ、いないこともないけど……でも、それは違う気がして……」

「まあ、それはねぇ……なかなか難しい問題だよねぇ……」


 ふぅむ……そっち方面で悩める若人に俺がアドバイスできることはないだろうな……

 それにしても、こうして周りの会話に耳を傾けているが、今のところ武闘大会について語り合っている奴はあまりいないようだね。

 とはいえ、俺もファティマにいわれてだったからなぁ……ま、彼らも近いうちに意識が切り替わるだろう。

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