第54話 魔力の隠蔽
その後、身嗜みをビシッと決めて、エリナ先生の研究室に移動。
在室を確認して、ノック。
「どうぞ」
「失礼します。補習のためにお時間をいただき、ありがとうございます」
「いらっしゃい、アレス君。それは気にしなくて大丈夫よ」
「そう言っていただけて、助かります」
「それで今日やることとして、授業に出ていなかったときの内容でもいいのだけれど、ほとんどが学科だったから、私としてはこの前の魔力探知の続きでもいいかなって気もするのよね。アレス君はどっちがいい? それとも違う内容でも、構わないわよ?」
「そうですね、学科であれば教科書を読めばわかることですし、魔力探知の続きでお願いします」
「わかったわ。そして、続きって言ったのには理由があって、あの日は闇属性魔法で隠蔽した私の魔臓をアレス君が魔力探知で探ったわよね? でもその反対は時間の関係上出来なかった、だからそれをしてはどうかと思ったの」
「ああ、そういえばそうでしたね」
「それに、魔力操作の技術も上がって来たから、そろそろ魔力の隠蔽に手を付けてもいいかなって気もするのよね。今のままだと、魔力量が目立ち過ぎるし」
「そんなにですか?」
「そうねぇ、魔力探知に長けた魔法士ならすぐわかるし、日常生活中でも何もしていないのに周りから恐れられたりしたことあるでしょ? あまり魔法が得意じゃなくても敏感な人なら魔力による圧力を感じてしまうことがあるのよね……」
「そうですね、思い出してみれば結構ありますね……あれ、でもリッド君やエメちゃんみたいに私の圧力を感じていない人もいましたが、なにか違いがあるのでしょうか?」
「親近感や敵対心、そう言った感情的なものの影響ね、たぶんアレス君を恐れた人って知らない人とか、あまり親しくない人だったでしょ?」
「なるほど、そういうことでしたか」
「そして、感情的なものを含めて魔力にはいろいろな情報が含まれているから、そういったものを読み取られてしまうことを防ぐためにも、魔力の隠蔽を学んでおく価値があるの」
「そう聞くと確かに重要ですね……でもそれなら、もっと早く授業で扱った方がいいのでは?」
「そうなのだけれど、難易度がね……魔力操作の習熟度と常時展開するなら相応の魔力量も必要で、要求されることが多いの。そんなわけだから、魔力の隠蔽が不得意な魔法士も結構いるのよね……」
「……納得しました」
「少し前置きが長くなってしまったわね、そろそろ始めましょうか」
「はい」
「まずは前回と同じように、私が魔力を闇属性魔法で隠蔽するから、それを感じ取ってちょうだい。そして前回は魔臓を認識することに集中したけれど、今回は魔臓ではなく、その周りの隠蔽に使われている闇属性魔法の方に注目してね。それに慣れてきたら、魔臓だけじゃなくて魔力経も隠蔽しているから、そこも感じ取ってみて」
「わかりました」
そして、エリナ先生の言う通りに闇属性魔法に意識を集中させる。
それをしばらく続ける。
なるほど、イメージ的には魔臓と魔力経を闇属性の魔力でコーティングする感じだな。
「だいぶ掴めたみたいね。それじゃあ、やることはだいたいわかったと思うから、今度はアレス君が魔力の隠蔽をやってみましょう。最初はそうね、アレス君は魔力の膜を常時展開しているでしょう? それを闇属性の魔力で展開することから始めてみましょう」
「魔力の膜……ああ、魔纏のことか、わかりました、やってみます」
基本的に魔纏はいつも無属性、っていうか属性を意識せずに魔力を身に纏っていたからな……
もしかしたら地味に初めてかもしれん、まぁそれはいいとして、闇属性の魔力を纏う。
なんか黒いロングコートを着るみたいなイメージが浮かんできた……やだカッコイイじゃないの。
って余計な事に意識を向けてたらエリナ先生に申し訳ない、真剣に。
「そう、いい感じよ、さすがにこれは慣れているみたいね。それじゃあ次は、それを少しずつ狭めて行って、体の内部の魔臓を闇属性の魔力で覆ってみましょう。魔力経まで覆うのはまだ考えなくていいわ、細かすぎて最初は難しいと思うから」
魔臓を闇属性の魔力で覆うか……運動用魔力操作で似たようなことはいつもやってるんだ、そこまで難しくはないだろう。
よし、大丈夫、出来てるはずだ。
「そうそう、出来てるわ。じゃあ、そのまま魔臓から魔力経まで伸ばしてみて、このとき太い魔力経を覆ってしまってから、徐々に細い魔力経に意識を向けるといいわ」
なんとなくだけど、本とかレポートの「章」「節」「項」の章立てみたいだなって思った。
でかい単位のまとまりから階層化していくみたいな?
うぅ、前世の大学で書かされたレポートのめんどくささを思い出してしまった……
あれって、なんか締め切り近くなるまで、先延ばしにしちゃうんだよなぁ。
って、こっちでもレポートを書かされる機会もそのうち出てくるかな……ああ、めんどうだなぁ。
……おっと、そんな事考えてる場合じゃなかった。
そうして、ある程度時間がかかってしまったが、なんとか魔力経を覆いきれた。
末端のかなり細かい魔力経まで覆うのは地味に大変だった。
「いいわ、よく出来てる。じゃあ、今日はここまでにしましょう、お疲れ様」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても、今日1日でここまで出来るとは……よく頑張ったわね」
「それはエリナ先生の指導がわかりやすく素晴らしかったからに他なりません」
「ふふっ、ありがとう。そうだ、このあとお茶を淹れるのだけど、アレス君も飲んでいかない?」
「いいんですか!?」
「もちろん」
「喜んで!!」
「じゃあ淹れてくるから、ちょっと待っててね」
「はいっ!」
あ、そういえばクッキーブラザーズのバター兄さんの出番がまだだったな……
よし、ここで行こうじゃないか、頼むぞ、バター兄さん!
「お待たせ……あら、またクッキーを用意してくれたの? ありがとうね」
「いえいえ、この体を見ての通り、私はいつも食べ物を大量に持ち歩いていますので!」
「ふふっ、そうなのね。でも最近のアレス君、引き締まった体をしてきてるから、見てもわからないかもしないわね」
「あっ、そうでした……最近痩せてきていたのを忘れてました」
「だいぶ、頑張ったみたいね」
「いやぁ、それほどでも」
この暖かな雰囲気がとても心地いい。
そして、バタークッキーの濃厚なバターの香り、しっとりとした食感がやわらかな空間の演出に一役買っている。
ありがとう、バター兄さん。
「それで、明日の補習のことなんだけど、今日の続きで魔力の隠蔽の調節を練習してみようと思うの。完全に隠しきってしまうと違和感があって、魔力の隠蔽をしているのが丸わかりになってしまうし、中途半端に隠してもあまり意味がないし」
「確かに、どれぐらいがちょうどいいか、教えていただけると助かります」
「場面によってどれぐらいが適切かっていうのは変わって来るけれど、一応の目安は教えられると思うわ」
「それはありがたいです」
こうしてしばらくの間、エリナ先生との幸せなおしゃべりを楽しんだ。
魔法という共通の話題があるおかげで、何時間でも会話を続けられそうな気がする。
ホント、魔法のある世界に来れてよかった、転生神のお姉さんには感謝だね。
あとついでにオッサンにも。
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