第440話 既定路線
夕食を終え、部屋に戻ってきた。
「な~にが『最高の人材がそろってる』よ、ぜんっぜん分かってないよねぇ~?」
「まあ……平民の持つ情報量では仕方のないことかもしれませんわね」
どうやら、俺を差し置いて王女殿下のご学友たちを「最高」と表現することが面白くなかったらしい。
いや、アレス付きの使用人というポジションからすれば、そう思うのも自然なことかもしれないけどね。
ただ、そうはいっても彼らだってなかなかの逸材ぞろい。
それに主人公君は、原作ゲームのシナリオでは勇者になる男なんだ、伸びしろはバツグンさ。
「……あれは王女殿下派の宣伝だったりして?」
なるほど、あれが王女殿下派の宣伝だとすれば、主人公君の名前が大々的に出てこないで「ご学友」とまとめられるのも頷けることかもしれない。
「王女殿下派……なるほど、派閥としては新興の部類といえますものねぇ」
「そういえば、派閥を結成したのもつい最近なんだっけ?」
「そう、そしてその結成に深く関わっているのが……」
「あっ!」
「……そうでしたわねぇ」
とかなんとかいいながら俺を見てくる3人娘……
これは……「何かやっちゃいました?」の流れだ!
よっしゃ、ここだっ!!
「やれやれ……俺は魔力操作を彼らに勧めただけなんだがな?」
いったった! いったったぞォ!!
「……それを発した本人にとってはなんてことない一言が歴史を変えることもある」
「そうだよ! アレス君の一言が歴史を変えるんだよっ!!」
「さすがアレス様ですわ!!」
まさかの「さすアレ」がここで発動してしまった……
というか俺としては正直、原作ゲームのシナリオ的に王女殿下が女王陛下に即位するのは既定路線みたいな感覚があった。
それなのにこのワッショイ具合、ヤバいね。
未来を知ってる系の異世界転生の先輩諸兄がこういう場面で恥ずかしがってムズムズしていたとき、もしかたらこんな感じだったのかもしれない。
とはいえ、それもマヌケ族問題を解決してからの話だな。
といったところで、そろそろ勉強をしよう。
一応夏休みに入ってからも時間を見つけてコツコツとやってはいたのだが、徐々に後期開始が迫ってきたからね、より一層頑張るべきだろう。
ただし、勉強するだけっていうのはもったいないので、並行して魔法の練習もしている。
手を使わずに魔力だけで教科書を浮かせて読むとかね。
もちろん、ページをめくるのも魔力によっておこなう。
また、筆記作業が必要な場合は、障壁魔法を机のような形で生成して使っている。
フフッ、我ながらナイスな勉強スタイルだね!
そうして2時間ほど勉強に集中したあとは、ギドを伴って大浴場へ。
風呂はいい……勉強で疲れた心と体をゆったりと解きほぐしてくれる……
そして湯に浸かりながら、ギドが話しかけてきた。
この際、魔法で周囲に話の内容が漏れないようにしている。
ということはつまり、魔族絡みの話ということになるだろう。
「アレス様、最近よく耳にする異常気象の話や、先ほど聞こえてきた大規模なモンスターの氾濫……あれらは魔族の活動による影響かもしれません」
「ほう?」
「魔王復活のために集めたエネルギー、それが周囲の力の均衡に影響を及ぼすようになってきた可能性があります……とはいえ、これはまだ予兆のようなもので、実際に復活するにはまだまだ時間がかかると思いますが……」
「なるほど、王国も対策に動き始めたみたいだが……魔族側の活動も順調というわけか」
「まあ、徐々にやりづらくなってきてはいるみたいですけどね……」
「ふむ……魔王復活は止められそうもないか?」
「そうですねぇ……失敗を悟った魔族の自爆、あれも立派な復活のためのエネルギーになりますからね……」
「それはつまり、人間族から集められそうもなければ……最悪、自分たちを贄にするということか?」
「はい、その可能性はあります」
「なんとまあ、もったいないことをする」
「それをする……させられるのは下位の者からだと思われるので……」
「まったく、ひどい話だ」
「ですが、それは最悪の場合ですね。今はまだ活動できているようですし……」
「そうか……ちなみに『魔王の宝珠』を事前に破壊することはできないか?」
「そこまでご存じでしたか……ですが、残念ながら族長クラスの魔族にしか所在は分からないはずですし……それに、もし仮に魔王の宝珠を攻撃できたとしても、そのエネルギーすら吸収されてしまうでしょう」
「やはりか……」
まあ、魔族少女ヒロインは族長の娘とかいう設定があった気がするし……魔王の宝珠を破壊するっていうのも、主人公君の勇者パワーによる裏技って感じなんだろうなぁ。
でもま! その手を使う気はもともとあんまりなかったし、ガチンコで魔王をブッ飛ばせばいいだけだよな!!
よっしゃ、そうと決まれば、修行を頑張っぞ!!
……そういえば、ギドは魔王「様」って呼ばなくていいのかな?
「今の私が忠誠を捧げる相手はアレス様だけですよ……もっとも、ほかの方に社交上『様』とお付けすることはあるでしょうけれど」
「お、おう、そうか……」
ギドめ、相変わらず人の心を読みよるわい。
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