第93話 意地のぶつかり合い
「まずはキッズコースから行こうか」
『おおっとアレス選手、さっそくアイスランス10本を空中に生成! そのまま発射だぁ!!』
「馬鹿にするな!」
『対するロイター選手、ミスリルの剣に炎を纏わせ、迫りくるアイスランス10本すべてを斬り溶かす!』
「うん、いい感じだ! じゃあユースコース行ってみよう!」
『い、いったい何本アイスランスを生成するんだアレス選手! 舞台がアイスランスで埋まってしまいそうだ!!』
「フン、その程度で私が怯むとでも思ったか!」
「これで怯む程度なら、お前はそれまでの男だったというだけの話だ。さて、じゃあそろそろ発射するから準備しとけよ?」
『宣言通りアレス選手、アイスランスを次々と発射! そしてさらに生成と発射を繰り返す!!』
「こんなもの!」
『しかし、ロイター選手も負けてはいない! すべてのアイスランスを巧みな剣捌きで斬り溶かしていく!! ……それにしてもシュウさん、ロイター選手はなぜすべてのアイスランスを斬り溶かすのでしょう? 避けるだけではいけないのでしょうか?』
『それはですね、避けてもアイスランスが追いかけてくるからですよ。確実な対処のためには1本1本破壊しなければなりません』
『そんな! 数本ぐらいならわかりますが、あのアイスランスすべてをきっちり制御しているということですか!?』
『そうです。ついでに言うと魔力操作も同時に行い、空気中の魔素を取り込んで魔力に変換していますね。そのため極端なことを言えばここら一帯の魔素がある限り、アレス君は永遠にアイスランスを撃ち出し続けられますよ』
『そ、そんな……』
『そういうわけですから、ロイター君もそろそろアイスランスの攻略にかからないと、なにも出来ないまま終わってしまいますね』
「舐めるなぁ!!」
『ここでロイター選手、アイスランスを斬り飛ばしながら強行突破を図る! しかし、アレス選手のアイスランスの勢いに押され、その歩みはじりじりとしたものだぁ!』
「ロイターよ、お前はユースコース止まりの男なのか?」
「黙れ! 魔力の膜を使えるのがお前だけだと思うなよ!!」
『おおっとぉ!? ロイター選手、突然全身に炎を纏いだし、そのままアレス選手へ突撃を敢行!! 炎の温度が高いようでアイスランスが到達する前にすべて溶け落ちていく!! そして遂にアレス選手に剣が届く距離まで迫ることに成功!』
「くらえ!」
『気合十分! ロイター選手の一閃!! それをトレントのマラカスで合わせるアレス選手!!』
「いらっしゃいロイター、よく来たな! これでユースコース卒業だ!!」
「さっきから、ふざけたことをごちゃごちゃと!」
『ロイター選手の連撃! しかしアレス選手に有効打を与えることが出来ていない!!』
『剣術の技量としてはロイター君の方が上で、マラカスによるアレス君の防御を突破することは出来ているのですが……いかんせんアレス君が展開する魔力の膜が厚すぎますね』
『おっと! ここでロイター選手の隙をついてアレス選手のカウンター!』
「なんの!」
『的確に魔力障壁を展開してカウンターを防ぐロイター選手! そしてお返しとばかりに一閃!!』
『今の魔力障壁は絶妙でしたね。これひとつでロイター君がどれだけ魔力操作に打ち込んできたかがわかろうというものです』
『なんと、そこまででしたか!?』
『はい、あと一瞬遅れていたら今頃左前腕が使い物にならなくなっていたことでしょう。そしておそらく、並の魔法士ならアレス君の一撃を甘くみてもっと薄い魔力障壁で対応し、左前腕ごと破壊されていました』
『た、確かに、どうしてもマラカスという先入観がありますからね……もしやこれが狙いでしょうか?』
『まったくそのつもりがないとまでは言えないでしょうが、それよりも決闘前に言っていた手加減のためでしょう』
『え! あれはロイター選手を挑発するための言葉ではなかったのですか!?』
『そうですね、手加減という言葉が悪かったでしょうか……いつもアレス君が腰に差している木刀は細かな制御に向かず、相手を壊しすぎてしまう……つまり死なせてしまうということですね。その点あのマラカスなら制御が効くのだと思います』
『な、なるほど……だからマラカスですか……そして長らく両者の打ち合いが続いていましたが、ロイター選手に疲れが見えてきました。少しずつ防御が遅れがちになっていく!』
「ぐっう、この!」
「どうした! さっきまでの元気はどこへ行った!?」
「煩い!」
『あっと、ロイター選手! たまらず牽制のライトバレットを扇状に放ち、後方へ緊急離脱……がしかし! アレス選手、一瞬で距離を詰めて追撃!! 残念ながら、アレス選手にはライトバレットは牽制にならなかったようだぁ!!』
「ぐあぁぁぁ!」
『そして遂に! アレス選手のマラカスの一撃がロイター選手の右大腿部に決まったぁ!! ロイター選手ダウーン!!』
『あれは骨が折れてますね』
『なんと! ロイター選手骨折!! 戦闘続行は不可能か!?』
「ふざ、ける……な! 私はまだ……戦える!!」
『なんとなんとなんと! ロイター選手、骨が折れているはずなのに、立ち上がってきたぁ!!』
『あれは回復魔法を使いましたね』
『そ、そんな馬鹿な! この短時間で骨折を治したというのですか!?』
『はい、それだけ回復魔法の練度が高いということです』
『す、凄い! これが王国武術大会少年の部優勝者の底力なのかぁ!!』
『普段のロイター君は剣術や攻撃魔法の技量の高さが目立ちがちですが、彼の真骨頂は回復魔法による継戦能力の高さにあります。もっとも、今までの対戦相手に骨折までさせられた経験はないと思いますが』
「おいおい、回復魔法とかマジかよ……」
「どうした? まさか回復魔法を卑怯だなんて言い出すんじゃないだろうな?」
「……いや、そんなこと言わない……言うわけないじゃないかぁ!! いいよ! すっごくいい!! それっておかわり自由ってことだよな!? いいか、絶対に途中で音を上げるんじゃねぇぞ! 絶対だぞ!! それじゃあ、いっただっきま~す!!」
『アレス選手、喜色満面でロイター選手に飛び掛かる! そして、滅多打ち! 心なしかさっきより攻撃速度が上がっているようにも見えます!!』
『実際に上がってますね』
『連打連打連打!! ロイター選手も懸命に防御を続けますが……ああ、遂に防御が追い付かなくなってしまった!』
『攻撃と回復……ここからは我慢比べですよ』
『我慢比べ? それはどういうことですか? あそこまで滅多打ちにされては、回復の余裕などないように見えますが?』
『いえ、めちゃくちゃに打ちのめしているようにも見えますが、アレス君が狙っている部位は手足のみ。そして回復魔法を使う隙を、さらに言えば魔力操作で空気中の魔素を取り込む余裕さえ与えています……とはいえ、これはロイター君の魔法の技量あってのことですが……フフッ、なんとも嫌な共同作業ですね』
『な、なんてことを……しかし、アレス選手もそこまで出来るのなら、もうロイター選手のポーション瓶を割ってしまえばいいのでは……?』
『それは無理というものでしょう……この決闘は意地のぶつかり合いなのです、相手を完全に屈服させねばなりません。心の底から負けを認めさせねば、再度決闘をすることになるでしょう』
『意地のぶつかり合い……そう言われてしまうと、もうなにも言えませんね』
『本来決闘とはそういうものですからね、生半可な気持ちでするものではないということです』
『そうこう言っているうちに、ロイター選手ダウン! さすがにここまでやられては立ち上がってこれないか!?』
「まだ、だ……私は、負け……られ……ないッ!!」
『なんとロイター選手! 再度立ち上がってきたぁ!!』
「ほう、なかなかガッツがあるじゃないか! じゃあ……もういっちょ行こうかぁ!!」
『そして、アレス選手による滅多打ちが再開される!』
『ここからが長いですよ……ロイター君も覚悟を決めたようですし』
『え!? 覚悟って!?』
『それはもちろん……ね? とはいえ、アレス君もそこは気を付けているでしょうから、気を失うまででしょうね』
『……そんな、気を失うまでって……それまであの拷問が続くというわけですか!?』
『そうなりますね』
『……こうして話している間にも、アレス選手による滅多打ちは続く! 打撃音に骨が砕ける音……そこに混ざるマラカスの軽快なシャカシャカ音がとても不気味に響き渡る!!』
『もしかしたら、リストレアが着想を得た音というのは、これだったのかもしれませんね?』
『そ、そうですね……は、ははは………………ああ! そうこうしているうちに再度ロイター選手ダウン! もういい! もう起き上がってこなくていい! これ以上耐える必要ないんだ! もうゆっくり休んでくれ!!』
『いえ、ロイター君の心はまだ倒れていません』
『……ロイター選手再度立ち上がる! もう、もういいんじゃないか!? あなたの意地はよくわかった!! だからもう!! そして、アレス選手も! これ以上は勘弁してあげられないだろうか!? ポーション瓶を割るなり奪うなり、それだけならすぐ出来るだろう!?』
「そうだそうだ! もうそこまでにしておいてやれー!!」
「もうやめてぇ! ロイター様が死んじゃうぅ!!」
「おい魔力操作狂い! お前は血に飢えたモンスターなのか!!」
『会場中からも、あなたたち2人を止める声が叫ばれています! 聞こえているのなら、もうそこまでにしましょう!! これ以上はもう!!』
「王女殿下! どうか、どうか殿下からも止めてくださいッ!! お願いします!!」
「……申し訳ありません、戦闘の意思が見られるうちは……わたくしから2人を止めることは出来ません」
「そんなぁ!!」
「ファティマ! アンタよ! アンタが原因なんだから! アンタが責任もって止めなさいよ!!」
「……ダメよ、あんなに楽しそうな2人を止めるのは可哀そうだもの」
「なッ!? この女! 頭おかしいんじゃないの!?」
「最低女!! そんなにロイター様が傷つく姿を見て楽しいの!?」
「クソ女!! アンタが代わりに殴られなさいよ!!」
「ファティマちゃんって……サディストだったんだ……幻滅」
「俺も……ファティマ嬢のこといいなって思っていたけど……」
「そんなこと言わないで! ファティマちゃんにも考えがあるはずなの!!」
「パルフェナちゃん……そうは言ってもあれだぜ?」
「そうそう、魔力操作狂いもヤベェし、ファティマもヤベェ女だったってことでしょ? お似合いじゃん」
「ロイターもそろそろ正気に戻った方がいいんじゃねぇの?」
「お前……ら! ファ……ティマさんの……ことを、悪く……言うなぁ!!」
『ロイター選手のどこにそんな気力が残っているのか……もうフラフラなのに、ファティマ嬢への誹謗中傷に一喝!!』
「よそ見しちゃダメじゃないか、お前の相手は俺だろう?」
「う……る……さい!」
「……ロイター様! ここまで来たんだ、最後まで頑張りましょう!!」
「おいサンズ! お前なに言ってんだよ! シュウの野郎はああ言ってたが、相手は魔力操作狂いだぞ!? 下手したら殺されちまうぞ!!」
「そうよ! ロイター様の子分の癖に! そんなこともわからないの!?」
「煩い! ロイター様は無敵だ! そのことは僕が一番よく知っている!! ロイター様! アレスさんとて疲れないわけじゃない! 最後まで粘ればチャンスもあるはずです!!」
「こ、こいつも頭がおかしい奴か……」
『あぁ……ロイター選手、態勢を崩しダウン寸前…………いやしかし、気力を振り絞り倒れない! ……もう意識も半分朦朧としているだろうに、あなたはどうしてそこまで耐えられるんだ!?』
ロイター、お前は凄い奴だよ……ここまででどんだけ手足の骨を砕いたかわかんねぇもん。
もしかしたら、4桁に届いてるかもしれないぞ?
そして今も砕き続けているけど、泣き言ひとつ漏らさないで耐えてるし。
そのガッツはどこから来るんだ?
そこまでファティマに惚れてんのか?
……別にファティマの奴もお前のことを嫌いじゃないみたいだし……認めてやってもいいかな?
いや、むしろ俺がお前のことを気に入っちまった。
そうだな、この勝負……お前に譲るよ。
「ロイター、お前みたいなガッツのある男、俺は嫌いじゃない……」
『おぉっと、ここでアレス選手、おもむろに胸ポケットからポーションを取り出し……それをどうするつもりだ!? まさか!? ……飲んだ! アレス選手がポーションを飲んだぁ!! ……これはつまり!?』
『降参の意思表示になりますね』
「なッ!?」
「……アレスさん、その行動……取り消すことは出来ませんよ?」
「わかっておりますとも」
「……わかりました、この決闘」
「お待ち……くだ……さい! 王女……殿下!!」
「……ロイターさん、どうしましたか?」
「私は、こん……な決……着、認め……ない!」
『な、なんと! ロイター選手、王女殿下の勝利宣告を引き止め……自分のポーションを頭から被ったぁ!!』
「………………私が勝利を譲られて喜ぶ男だと思ったか!? ふざけるな!! そんな勝利でファティマさんの心を掴めるわけがないだろうが!! ……だが、今の私ではお前の実力に及ばないことも理解した……それゆえ、もう一度鍛え直しお前を超える!! それまで待っていてくださいファティマさん!!」
『こ、これはどういうことだ?』
「……ロイターさん、その選択に後悔はありませんか?」
「ありません!!」
「……わかりました、この決闘……引き分けとします!!」
『引き分け! 引き分けだぁ!! いろいろありましたがこの決闘……ロイター選手によるアレス選手へのライバル宣言で幕引きということでしょうか?』
『そうですね、彼らの今後が楽しみになってきますね』
『えっと……シュウさん? なんか魔力圧が漏れてませんか?』
『おっと、僕としたことが』
ロイターの奴、マジかよ……
さらに気に入っちまったよ、いいよ、いつでも相手してやるよ。
……あと、回復魔法を教えてくんないかな?
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