第94話 これで決定とします

 決闘が終わり、王女殿下の取り巻き君たちが観衆の移動を誘導している。

 その間別室で引き分けの取り扱いを協議することになった。

 俺もロイターもそれぞれ勝つつもりだったからね、決めてなかったんだよ。

 それで参加者は、直接の関係者である俺とロイターとファティマ、調停者として王女殿下と取り巻き代表の主人公君、あとはロイターとファティマの付き添いでサンズとパルフェナってところだね。

 話が脱線することを覚悟で言うけど、夜会が始まってから今まで主人公君の存在を忘れてた。

 おかしいな、オーガの捜索をしていたときぐらいまでは意識にあったと思うんだけど……

 もしかして、王女殿下の取り巻きの中で埋もれ始めてる?

 まぁ、実況君みたいに得意分野で存在感を示し始めている猛者もいるからね。

 このままだと、王女殿下の取り巻きセンターのポジションを奪われてしまうよ? だからもっと頑張ろうぜ!?

 そんな気持ちを込めて主人公君を見つめてみたら、若干目が泳ぎ始めたぞ……おいおい、大丈夫か?

 主人公君、ゲームではもっと凛々しかった気がするんだけどな……

 いやまぁ、性格に関してはプレイヤーの選択肢の選び方次第なところもあったけどさ。

 それとも、プレイヤーが知らない普段はこんなもんで、ここぞってところで決める男だったのかな?

 とりあえず、これ以上見つめるのはやめてあげよう、なんか困ってるみたいだし。

 そんな呑気なことをのほほんと考えていたら、いつの間にか近くに来ていたファティマにビンタされた。

 まぁ、魔纏を展開しているからノーダメージなんだけどね。

 ただ、周りのみんなからは「そのビンタは生身でもらっとけよ」みたいな顔をされてしまった……

 でもね、それなら「これからビンタしますよ」と一言あってもよかったんじゃないかと思う。

 俺が魔纏を常時展開していることぐらい、ここに集まった連中のレベルならわかっていることだろうに……

 だからせめて、そういう雰囲気ぐらいは出しとけって言いたい。

 そしたら俺だって魔纏を解いてたさ!

 そんな一瞬の間があってから、ファティマが口を開いた。


「……最後のあれはなに?」

「降参の意思表示だが?」

「……なぜ?」

「ロイターに男を見たからだ」

「……そう、でも次同じことをしたら許さないから」

「悪いが約束は出来ない……次また男を感じる奴に出会ったら、きっと俺は同じことをする」

「……まったく、ひどい人ね」

「ああ、俺はそういう男だ」

「……だけど、ひとつだけ言っておくわ……あれはあなたの独り善がりよ」

「!!」


 困ったな……なんも言えねぇ。

 言われてみればそうだったかもしんねぇ……

 なんかカッコいいつもりになってた……


「……お前の言う通りだった、悪かった……そしてロイター、お前にも失礼なことをした、すまない」

「私に対して謝る必要はない、あのとき既に文句は言ったしな……そして、私も感情に任せた行動を取ってしまった、ファティマさん、申し訳ない」

「いいえ、考えなしのアレスが悪かっただけ。むしろ、ロイターが惨めな勝利を嬉しがる人じゃなくてよかったわ」

「ファティマさん……そう言ってもらえると助かるよ」

「……もうそれぐらいにしておきましょう。アレスさんも反省しているようですし」

「王女殿下の言う通りだよ、アレス君だって悪気があってしたことじゃないんだからさ」


 王女殿下とパルフェナのフォローだが、今の俺には痛い。

 なんか、恥ずかしさが込み上げてくるんだ……


「……あの、そろそろ引き分けの取り扱いを考えませんか?」


 たまたま俺と目が合って、心情を察してくれたサンズが話題の切り替えを提案してくれた。

 ありがとう、お前いいやつだな!


「そうですね……今回の決闘において勝者が得る権利はファティマさんと野営研修のパーティーを組むことが出来るというものでした。そこで、わたくしからの提案としましては、ロイターさんとアレスさん、2人ともファティマさんとパーティーを組むというのはいかがでしょう? そこにサンズさんとパルフェナさんが加わって5人、ちょうどいいのではないですか?」

「賛成です! アレス君もロイター君も負けてないんだし!!」

「僕もパルフェナさんと同意見です……ロイター様、ここは変な意地を張るのはやめておきましょう」

「サンズ……そうだな…………わかりました、王女殿下の提案をお受けします」

「ファティマちゃんも! ね!?」

「……仕方ないわね」


 そして最後、みんなの視線が俺に集中する。

 さすがに、ここは奇を衒う場面ではないってことぐらいは俺にもわかるよ。

 別にロイターの男ぶりも嫌いじゃないし、サンズもなかなかにいい奴っぽい。

 ファティマとパルフェナとはもともとパーティーを組む約束をしてたわけだしな。

 それに、男が俺1人のハーレムパーティーよりメンズが加わってくれた方が、エリナ先生から変な誤解を受けずに済むだろう。

 なんだ、これ以上ないぐらいの結果に落ち着いたじゃないか!

 サンキュー王女殿下、ナイス提案だ!!


「さすがは王女殿下! 素晴らしい提案、喜んでお受けします!!」

「そうですか、みなさんの納得が得られたようで嬉しく思います。では、これで決定とします」


 こうして今回の決闘に決着がついた。

 そういえば、昨日ボードを取りに行く予定だったんだよな……決闘騒ぎで忘れてた。

 もう今日は遅いし、明日かな?

 こんなことならミスリル製のボードを注文してもよかったな……ミスったなぁ。

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