第506話 姉の後ろをついて歩く弟

 セテルタとエトアラ嬢に抑えられたことにより、モッツケラス家とトキラミテ家の取り巻きたちが後ろに下がった。

 ぶっちゃけ、確かに彼らの口論は時間の無駄感があったかもしれない。

 とはいえ、彼らも内心ではそう理解しつつ、でもやっぱケンカを吹っ掛けなきゃという義務感みたいなものがあったのかもしれない……巻き込まれるほうはいい迷惑といわざるを得ないけどね。

 それはそれとして、エトアラ嬢が何を言い出すのか……


「あなたが婚姻話を出した直後に、僕がアレスと友好関係を深めたことが気に入らなかったか?」

「オーッホッホッホ! 何を言い出すかと思えば……そんなこと、全く気にしておりませんわよ? そもそもモッツケラス家は坊やに限らず、大昔から我がトキラミテ家のマネばかりをなさっていたものねぇ? まるで雛鳥が親鳥のマネをするように……いえ、親子というよりは、もともと姉弟であった両家の初代様からして、ず~っと姉の後ろをついて歩く弟といった感じかしら。そう考えると今回も、どうせわたくしのマネがしたかったのでしょう? ふふっ、可愛いものね」

「いいたいことはそれだけか? 確かに、僕がアレスと仲よくなったきっかけとして、あなたとのことがあったことは否定しない。だが、断じてマネをしたわけではない! たまたま話す機会があって、そこで意気投合しただけだ!!」

「ええ、ええ、そう無理に頑張らずとも、よ~く分かっておりますとも。年長者として……ついでなので初代様に倣ってといいましょうか、弟がしたこととして優しく受け止めてあげますわ」

「……バカにするな」


 ……やべぇ、セテルタには申し訳ない気もしてくるが……この、セテルタに対してお姉さん風をビュンビュン吹かせているエトアラ嬢、悪くない! いや、凄くいい!!

 というかね、正直なところお姉さん大好き民としては、姉弟というカップリングも大好物なんだよ!!

 まあ、現実的にはいろいろと問題もあるから、義理の姉弟という関係が精一杯って感じになっちゃうんだろうけどさ……って、何いってんだ俺!?

 セテルタの友達として、このシチュエーションに喜んじゃうのは、やっぱナシだよな……

 なんか、隣のほうからも……そう、ロイターとサンズから、あきれたような視線も飛んできてるし……きっとこの2人のことだ、俺の考えていることにも、おおよその見当がついているのだろう。

 でもさ、やっぱこの光景……俺好みなんだよね。

 セテルタが頑張って背伸びしてる感もヒシヒシと伝わってきて、それがまたね、たまんないといったらないんだ。


「そして、坊やのことはともかくとして、アレス殿」

「……あ? ああ、何か? いや、そうではなく、俺とセテルタとのことは気にしていないとのことだったが、俺も少しばかり配慮に欠けるおこないだったことも確かだ、その点については申し訳なかった」


 見たところなんともなさそうだが、それでも今朝食事を共にした女子にいわれたとおり、心を傷付けたかもしれないからね、謝ることにした。


「あらあら、そのようなこと気にせずとも良いのに、真面目ねぇ? それに昨日も少し話しましたが、これから1年半は自由になさって結構、それはつまり、モッツケラスの坊やと仲良くしても構わないということですわ……まあ、それ以後は要相談となるかしら、うふふっ」

「そ、そうか……」


 どうやら、ファティマの予想が当たったのかもしれない……

 エトアラ嬢、なかなかタフな性格をしていらっしゃる。

 これはちょっと、「姉弟萌え~」とか喜んでる場合じゃないかもしれない。


「そういうことですから、気兼ねなく気に入った相手と交友関係を築いてくれたらよろしいわ。まあ、いいたいことはそれだけよ、それでは、ごきげんよう」


 そう言い残し、エトアラ嬢とその取り巻きたちは去っていった。


「……まあ、頑張れ」

「ファイトです、アレスさん」


 少しばかり唖然としていた俺に、ロイターとサンズが苦笑いを浮かべながら声をかけてきた。


「……まったく、相変わらずあの人は横暴だ」


 なんというか、エトアラ嬢にお姉さん風ビュンビュンで押されっぱなしだったセテルタが、悔し気にそう呟いていた。

 こういうとき、セテルタになんて声をかければいいだろうか……


「セテルタ……その、なんというか……」

「ああ、ゴメン……あの人とはいつもこんな調子でね……子供扱いというか、見くびられているというか……」

「まあ……そこそこお姉さん感はあったよな?」


 年齢要件を満たしていないのが残念ではあったが、エトアラ嬢は10代の小娘にしてはスジがよかったように感じる。

 あのまま成長して20代に突入したら……とても、いい。


「確かに、当家の初代様はあの家の初代様の弟なのは間違いない……だけど、その意識のままずっと接してこられてはね……」

「そ、そうか……」


 なんとな~く、両家の関係性がより見えてきた。

 おそらく、モッツケラス家はトキラミテ家にず~っとマウントをとられ続けていたのが気に入らなかったって感じなんだろうなぁ。

 たぶん、歴代の当主たちも、上から目線であれやこれやと振り回されることもあったのだろうし……

 そうしていくうちに、いつのまにか関係が拗れ始めて今に至ったってところかな。

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