第789話 興味の火が消えないうちに
「おはよう、キズナ君! 今日もしなやかで見事な枝ぶりだね!!」
というわけで、キズナ君と起床の挨拶を交わした。
そして今日は地の日!
それはつまり、武闘大会が終わり、通常授業が始まって1週間が経過したと言えるわけだね。
この間、おかげさまでレミリネ流剣術を学びたいと言って練習会に参加してくれる人が順調に増えていっている。
しかも、1年生からだけではなく、エトアラ嬢による働きかけもあってか、2年生女子など他学年からの参加者もチラホラと見受けられ、実に喜ばしい状況である。
そんな感じで参加者が増えていること自体は嬉しいのだが……その多くが貴族の子女っていうのが、ちょっと気になるところだ。
いや、平民の参加者がいないわけではないし、もともと学園に在籍している平民が貴族に比べて少ないというのはある。
そうではあるものの、やっぱり平民の割合が少ないなって感じてしまうのは正直な感想だ。
まあねぇ……おそらく平民たちは貴族たちに遠慮してるんだろうなっていうのは想像できるところではある。
そのため、こちらとしては平民たちにも門戸を開いていますよってアピールもできればなぁって思う。
そんなことを考えながら平静シリーズを身に付けていき、朝練に行くための準備完了というわけである。
「さぁて! それじゃあ、朝練に行ってくるよ、キズナ君!!」
そうキズナ君に一声かけ、部屋を後にした。
そして、向かった先にはいつもどおり……
「おはよう、今日もいい天気ね」
「おっ、そうだな!」
平静シリーズに身を包んだファティマと挨拶を交わし、今日も元気に早朝ランニングスタートである。
「この1週間、順調にレミリネ流を学ぼうとする人が増えてきてよかったわね?」
「おう! ホントそうだよ!!」
「まあ、婚活の一環として参加している子もそれなりにいるようだけれど……」
婚活か……貴族令嬢としてはやっぱ、それは外せないことだろうからねぇ……
とはいえ、アイドルの追っかけって雰囲気の子も多いんだよなぁ。
「ふむ……婚活、そして目をハートマークにした令嬢がそれなりにいるのは、俺も感じていたところだ」
「とはいえ、そういう子たちも練習自体はある程度真面目に取り組んでいるようだから、そこはあまり強く指摘するほどではないといったところかしら」
「そうそう、切り替えが上手いと言えばいいのか……近距離でロイターとかのイケメンから指導を受けるときなんかは、はしゃいだ雰囲気を隠しきれてないのだが、それ以外はまあまあ真面目な雰囲気に戻るという……実に器用なものだよ」
「本当に器用な子だと、そういう雰囲気を一切悟らせないのでしょうし……それどころか、自分ほど真剣な者はいないと思わせることができる気がするわ」
「う~ん……そこまでとなると、もう見抜けないだろうなぁ……とはいえ、周囲に不真面目な雰囲気を伝播させないでおいてくれるなら、それでじゅうぶんな気もするけどな……もちろん、俺としては皆に最大限の学びを得てもらいたいとは思っているが……」
「そうね」
ここでついでだから、実際にレミリネ流を学んだみた感想なんかもあるようだったら、聞いてみるとするかな。
「それはそうと……女子たちのあいだでレミリネ流を学び始めた感想とかが話題になることはあるか?」
「ええ、みんなそれぞれに学ぶ楽しさを見出すことができているみたい」
「おおっ! それはよかった!!」
「それに、もともと女性が使っていた剣術だけあってか、王国式より身体に馴染むと言っている子もいたわね」
「ほう! 王国式よりもか!? でも、言われてみればそうだな……確かに王国式は腕力で断ち切るってニュアンスの技がまあまあ多い印象だったもんなぁ」
「そして、レミリネ流は全体的にしなやかな動きが特徴のように感じるものね」
「うむ、そうだな」
もしかすると王国式を制定する際、最初に深く関わっていたのは、力や体格に恵まれた男だったのかもしれない。
そのため、王国式がそういったタイプの感覚にマッチするような性格の剣術に育っていったのだとしても不思議ではない気がする。
「ああ、それと……今のところ一刀流の型を重点的に教えられているけれど、そろそろ二刀流もやってみたいという声もあったわ」
「ふむ、二刀流か……ある程度一刀流の基礎を固めてから、応用として学ぶほうがいいかと考えていたが……二刀流に強い興味がある子もいるのなら、その興味の火が消えないうちに触れさせてみてもいいかもしれないな」
「一刀流の基礎を固めてからというアレスの考えに賛成ではあるけれど……試す程度にでも、いくらか二刀流の型を教えてあげてもいいかもしれないわね」
「ファティマもそう思うか……なら、今日の練習会からいくつか入れてみるとするかな……まあ、人によっては完全に二刀流のほうが向いてるってこともあるだろうしなぁ」
「そうね……とはいえアレスのことだから、最終的には一刀でも二刀でも使いこなせるよう指導していくつもりなのでしょう?」
「フッ、もちろんだ!」
そんなこんなで、夕食後の練習会について話し合いながら走っていたのだった。
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