第545話 見事

 学園の中は今も、昨日の夜会の話でワイワイしていることだろう。

 フフッ……うちの学園はおしゃべりさんが多いからね。

 そんなことを思いつつ、午後からは街中を散策することにした。

 まあね、街周辺の森でモンスター狩りをするのもいいかなって思わなくもなかったんだけど……やっぱ、今の俺って、浮かれてるだろうからね。

 いや、午前の稽古を集中力を持って取り組んだおかげで、ある程度は落ち着いているとは思うんだ。

 でも、俺の心の奥底……深い部分がおそらく、フワフワゆるゆるとしちゃってるだろうからね。

 そんな状態だと、たとえザコモンスターが相手だとしても、思わぬ一撃を頂戴してしまうかもしれない。

 だから、俺が芯から落ち着くまで……今日のところは街中をブラりお出かけして過ごそうと思う。

 それに何より……今も俺の脳内で、昨日の光景がエンドレスループしてるからね!

 ……なんてことをつらつらと考えているうちに、やって来ました! 凄腕錬金術師であるトレルルスの店!!


「やあ、アレス君……いらっしゃ~い」

「おう、またポーションを買いに来たぞ!」

「まいどありがとうねぇ~」


 もう俺の身体は、トレルルス特製のポーションがないとダメになってしまっているからな……

 というのは、ちょっと表現がオーバーに過ぎるかもしれないが、そういっても過言でないぐらいにお気に入りって感じ。


「ああ、そうそう……最近ね、あの子たちに少しずつポーションの作成もさせているんだよねぇ~」

「ほう……それで、どんな感じだ?」

「フフッ……それが、コレさ!」


 そういって、トレルルスはポーションの入った瓶を渡してきた。


「ふむ……」


 なんて、分かってますふうな顔を作りながら瓶を眺める。

 まあ、俺はポーションの専門家ではないからね。

 ただし、専門家ではないものの、瓶の中に入った液体が放つ魔力を感じ取ることはできる。

 その感じ的に、ちゃんとポーションになってそうってことぐらいは分かる。


「……魔力の感じ的に、ポーションにはなってそうだな」

「さすがだねぇ……うん、僕が求める水準にはまだ到達していないけど、悪くはないって感じさ」

「ほほう……あの子たちも頑張っているようだな!」

「そんなわけで、あの子たちが作ったポーションは新人冒険者向けに安く提供してるのさぁ」

「へぇ、それはそれは……何かと稼ぎの少ない新人にはありがたいだろうな」

「うん、値段のこともあって、なかなか人気だよぉ」

「おぉっ! いい感じだな!!」

「フフッ、僕としても教えがいがあって、あの子たちを紹介してくれたアレス君に感謝しているのさぁ」

「いや、こちらこそありがとうだ!」


 やはり、トレルルスに頼んで正解だったな!

 そんな感じで、今回もトレルルスの店でポーションを大量購入した。

 ただ、あの子たちが作ったポーションは購入していない。

 トレルルスに最初に渡されたポーションをそのままもらっただけ。

 いや、だってね、俺がそれらを買っちゃうと、新人冒険者たちの分がなくなっちゃうからさ……

 でもまあ、今は最下級ポーションで、品質としてもトレルルスの満足いくレベルには到達していないということなので……もっと修行を積んで、ちゃんとした値段で売れるようなのができるようになったら、そのときこそガッチリ大人買いさせてもらおうと思う。

 それまで、楽しみにさせてもらうとしよう。

 そうしてトレルルスの店を出たあとは、その辺を適当に食べ歩き。

 また、ゼスやグベル、それからエメちゃんがいるかと思って、ソートルの酒場にソーセージを食べにも行ってみたが、残念ながら配達依頼に出ていたようで、いなかった。

 うぅむ、彼らも忙しいんだなぁ……まあ、それだけ人気ってことなのだろう。

 フフッ……それもきっと、魔力操作で実力を伸ばした結果だろうね!

 といいつつ……エメちゃんに関しては、才能によるところが大きい気もするけどね。

 そんなこんなで、夕方までのんびり街ブラを楽しみ、学園に戻る。

 まあ、今日は汗をかくようなこともしていないし、そのまま食堂に向かってもいいかな?

 というわけで、男子寮の食堂で夕食をいただく。


「見事、お前の希望どおりになったな?」

「アレスさん、やりましたね」


 そこに、ロイターとサンズがやってきた。


「フフッ……ウフフフフ……そうなんだよぉ~! もう、最ッ高の結果!!」

「そんな気はしていたが、この話を振ったのは失敗だったな……」

「あはは……ですね」

「なんだよ、なんだよぉ~2人ともノリが悪いぞぉ~?」

「でもまあ、なんとか上手くいったのは、よかったといえるだろうな」

「ええ、まったくです……アレスさんが最初、セテルタさんをエトアラさんとカップリングさせようと言い出したときは、正直信じられませんでしたからね……」

「フッ……俺の思ったとおりだっただろう?」

「……まあな」

「その点については、さすがでしたね」

「フッフッフッ……でもま、お前らの協力にも感謝しているよ」

「別に、たいしたことはしていないがな」

「ええ、ただ一緒にいただけみたいなものでしたからね」

「いやいや、そういう雰囲気作りが重要だったからな……それに、ロイターという公爵子息が一緒にいたという事実も大きいのさ!」

「まあ、お前がそう思うのなら、そういうことにしておくか」

「ですね」


 そうして昨日の成功を3人で味わいつつ、夕食を終えた。

 そして食休みを挟んだところで、模擬戦をしに運動場へ向かった。

 すると、その運動場に……


「やあ、アレス! 僕たちも模擬戦に参加させてもらおうと思って!」

「わたくしはセテ君の応援だけでもよかったのですが……人数が必要ということであれば、参加させていただきますわ」


 セテルタとエトアラ嬢が仲良く! 並んで! その場にいたのだったッ!!

 くぅ~っ! いい絵面だなぁ~!!

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