トレジャーハンター
第109話 捕食者たちの宴
アラストから少し離れた郊外。シアドにほど近い森の中で、数人の男たちが円になって座り込んでいた。
時は夜。バチバチと音を立てる火を前にして、腹の大きな男がしかめっ面をして何かを待っていた。
「あいつはまだ帰らんのか」
「もう帰って来ても良い頃……あ」
「遅くなりました」
獣道を辿り姿を見せたのは、商人のように人懐っこい笑みを顔に張り付けた男だ。リンの前でアゴラと名のってた彼は、恰幅の良い男の前で膝を折った。
「お頭、遅くなり申し訳ない」
「お前が遅れるなど珍しいこともあるもんだな。……遅れたということは、それ相応の結果を持ち帰ったのだろうな?」
「……お頭を満足させられるかは分かりませんが」
そう前置きし、アゴラはアラストの街で収集した情報を話し始めた。
「リドアスに本拠を置く銀の華は、お頭の言うように自警団のような組織のようです。主に街の警護の役割を果し、北や南にも調査員を派遣して情報収集をしています」
「長は、あの若造か?」
お頭と呼ばれた男は、リドアスの街角で見た青年の姿を思い出し、尋ねた。特徴を聞いたアゴラは頷く。
「青っぽい黒髪に赤い目……。ええ、確かにそいつが長です。名は、氷山リン」
「ヒヤマ・リン? 珍しい名だな。二つ名か?」
「いいえ、地球で暮らす時の名だと言いますよ」
「地球、か」
男は周りに集う部下たちに目を向けた後、クックと笑った。いずれ、異世界である地球の宝も己の手中に収めよう。地球という異世界の存在は、昔からこのソディールでも存在を知られている。行き来する方法があるという噂もあるが、それは真だったようだ。
しかし、今は地球を目指す話をしているのではない。先を促すために男は一つ頷いた。アゴラもそれを受け、話を戻す。
「そのリンの父で銀の華の創設者は、我々が探し求める銀の華を同じく探し、また手がかりを掴んでいたと見えます」
「その根拠は」
冷たい瞳で尋ねられ、アゴラは姿勢を正した。
「……現在でも、銀の華を手に入れられていない、という事実です」
「おい、どういうことだよ?」
アゴラの右隣にいた痩せ形の男が口を挟んだ。お頭と共に街でリンを見かけていた男だ。アゴラは水を差されたことに気分を害することなく、男に向き直った。
「ガイ、逆に聞くが、何故手がかりを掴んでいたはずの初代を継いだ二代目が、まだ銀の華なんて組織の長をやってると思う?」
「知らねえよ、アゴラ。何でだよ」
考えることが若干苦手なガイに匙を投げられ、アゴラは苦笑した。
「手がかりは、所詮手がかりでしかなかったってことだ。それをもって花に辿り着くことは出来なかった。伝説は伝説で、断片的で半端な情報しかもたらしてくれないのさ」
ですから、とアゴラはお頭と向かい合った。
「初代が死んで時間が経ちました。今、再び息子が手がかりを集め始めている。やつらより先に獲物への地図を描き出し、我々が手に入れましょう」
幻の銀色に輝く花。それを手に入れたものに願いは叶う。
手がかりを掴んだということは、実在の可能性を大きく引き上げる。
お頭は巨体を揺らし、頷いた。そこへ華奢な少女が近寄っていく。
「叔父様の探し物は見つかりそうですか?」
「おお、ストラ」
ショートの藍色の髪を夜風になびかせ、ストラと呼ばれた少女はお頭の隣に腰を下ろした。吊り目で少々きつい顔立ちをしているが、バラのような美貌の持ち主だ。その美しさに騙された男は数知れず。返り討ちにあった男も数は数えられない。
「お前にも手伝ってもらうぞ」
「勿論。喜んで」
ストラの頭を一撫でし、お頭は脂肪だけではなく筋肉も盛り合わせた太い腕を天に向かって突き出した。
「お前ら、次の獲物を狩りに行くぞ!」
「おおっ!」
威勢の良い男達の野太い声が、静かな暗闇を破るように響き渡った。
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