スカドゥラ王国二つ目の種

第669話 巨大図書館

 スカドゥラ王国二つ目の種を手に入れるため、リンたち一行は「数十年に一度の周期で必ず双子の男の子が生まれる町」を探していた。

 まず訪れたのは、アンバーダリオの南側に位置する町だ。大きな図書館があることで有名だというその町で、リンたちは噂の図書館へとやって来た。

「大きい……」

 感嘆の声を上げた春直の言う通り、図書館はかなり立派なもの。レンガ造りの建物はそのまま赤茶色で、古い時代の欧州の城のようなデザインだ。四階建てらしく、各階には大きな窓がはめられている。

 大きく開かれた入口では、出入りする人々が何冊もの本を抱えている。『スカドゥラ王国一の蔵書量』という触れ込みは、過大評価ではないのかもしれない。

 リンたちは、早速図書館内にある蔵書検索の端末にアクセスした。

 代表して端末を操作するユキが、小声で隣にいるリンに尋ねる。ちなみにリンと共に晶穂と唯文がおり、他のメンバーはそれぞれに図書館内を探索中だ。役立ちそうな書籍を見付けたら持ってくるということになっている。

「何を調べればいい?」

「最初は昔話とか伝説のカテゴリかな」

 ひそひそと話しながら、キーワードを打ち込んでいく。ふと晶穂がそっと呟いた。

「双子っていうキーワードでは出すの難しいかな?」

「本の詳しい中身までは検索出来ないだろうと思うが……」

「昔話や伝説の部類の本が集まっているところを重点的に探すことになりそうですね」

 唯文の言う通り、端末は昔話や伝説を扱ったコーナーを教えてくれた。そこには既にユーギと春直がおり、高いところの本を取るために梯子はしごに上っていた。

「あ、団長たち」

「ユーギ、危ないから本を取って降りて来い。それから話そう」

 声を潜めたリンが言うと、ユーギは頷いて目当ての本を取り出して降りてきた。何を手にしたのかと見れば、昔話全集と書いてある。

「このあたりの昔話を知りたいって図書館の人に言ったら、これがいいんじゃないかって教えてくれたんだ」

「スカドゥラの子どもたちが、幼い頃に読み聞かせられる本の一つだそうです」

「そうか、ありがとう。席を確保しに行ってくれるか? 俺たちも後で行く」

「わかった!」

 行こう。ユーギは春直を誘い、二人して本を読むためのスペースへと歩いて行く。

 リンたちは彼らを見送り、それぞれに本を探し始めた。棚は五つあり、何となくそれぞれに分かれて行く。

 リンが立ったのは、スカドゥラ王国南部の昔話や伝説など古い話を集めた棚だ。どれが目的に近付く鍵になるかわからないため、左上から順に背表紙を確認して行く。

(……『南部の昔話』、『おじいさんと犬』。このあたりは違うな)

 二段目、三段目と目を移動させる。5段目の棚はしゃがまなければ見られなかったが、そこに気になるタイトルを見付ける。

(『双子星のおはなし』。……晶穂の言っていた双子に関係するものか?)

 リンは黄ばんでいるその本を手に取り、晶穂とユキ、唯文はどうしているかと見回す。するとユキと唯文は二人で三台の棚を見回っていた。

「ユキ、唯文」

「兄さん。何か……見付けたみたいだね」

「ああ、お前たちもな」

 リンの視線が唯文の手にある二冊の本へと移動し、ふっと笑う。

「晶穂は何処にいるか知ってるか?」

「晶穂さんなら、さっきまでそこにいましたが……。あ、裏側みたいです」

「ごめん、探させた?」

 唯文の声を聞きつけた晶穂が、本棚の裏側からひょっこり顔を出す。本棚は裏が壁になっているわけではなく、そちらにも大量の本が並べられている。

 リンは軽く首を横に振る。そして晶穂が出て来た方の棚を覗き込んだ。

「そっちも大量だな……」

「うん。こんなに大きな図書館って初めて来たから、ちょっと嬉しくなっちゃった」

 機会があったらまた来たい。弾んだ声でそう言った晶穂は、リンに手にしていた本を見せた。彼女の持つ本は、ハードカバータイプと文庫本の二冊だ。

「この国の地図と一緒に、言い伝えが載ってるガイドブックみたい。あとこっちは古い文字で書かれているんだけど……読めないかな?」

「ジェイスさんなら読めるかも。持って行ってみよう」

「うん」

 勿論、ここまでの会話は全て小声で行われている。図書館内はお静かにという文言は、こちらの世界でも有効なのだ。

 あまり長居しても、今後に支障がある。そろそろ合流しようかということになり、ユキが首をひねった。

「そういえば、ユーギたちは何処にいるんだろ? あっちのスペースだよね」

「だな。あっち……かな」

 唯文が見たのは、読書スペース。しかしそちらにユーギの姿はない。他のメンバーの姿もなく、リンたちは何処に行ったのだろうと見回した。

 すると、晶穂が「あっ」と行って指差す。そちらにあったのは、中庭スペースだ。外で本を読めるということで、芝生が広がっている。幾つかのテーブルと椅子、パラソルが広げられ、その一つに仲間たちがいた。

「よお、リン」

「克臣さん。こんなところがあったんですね」

「天気がいい日はこういうところで本を読むのも良いよな」

 笑った克臣は、芝生に座ってハードカバーの本を開いている。その横で絵本を読んでいたユーギが、ぱっと顔を上げた。

「ここなら少しくらい騒いでも良いらしいよ。話し合うのに丁度いいかなって」

「流石だな、ユーギ。ありがとう」

「へへっ」

 確かに彼らの他にも、何組かのグループが思い思いに読書を楽しんでいる。子ども連れにとっては、声を出しても良いスペースは気が楽だろう。

「三人共、本探しお疲れ様。目ぼしいものはあったかな?」

 椅子に腰掛けていたジェイスに尋ねられ、リンは「はい」と頷いた。

「そちらはどうですか?」

「中身を確かめているところかな。リンたちも好きに座ると良いよ。それぞれ、手がかりを見付け次第報告するということにしているから」

「わかりました」

 しばし、調べ物タイムだ。約一時間後、唯文が「あ」と声を上げることになる。

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