第670話 双子の伝説
読書をしながらの調べ物が始まって一時間後、唯文が「あ」と声を上げた。
「何かあったの、唯文?」
「晶穂さん、これを見てくれませんか?」
唯文に頼まれ本を覗き込んだ晶穂は、該当箇所を読んで目を丸くした。これは、手がかりになるかもしれない。
「皆さん、少し良いですか?」
「どうした? 晶穂、唯文」
集まって来た仲間たちに、唯文が読んでいた本を見せる。そこには、スカドゥラ王国南部に伝わるという昔話に関する論文が書かれていた。
「『今でも王国南部にあるメレースの町では、一定の間隔で双子が生まれる。それは古来からの約束を果たすためだとされているが、真相は定かではない。』……これは」
「晶穂さんが聞いてきたという話とよく似ていますよね」
「ああ。少し待ってくれ」
論文を読み進めることをジェイスや克臣たちに任せ、リンは読んでいなかった一冊を手に取った。それは『双子星のおはなし』という童話の本だ。
タイトルを読み、晶穂が「それって」と身を乗り出す。
「そのものずばりのタイトルだね」
「ああ。あの論文の元ネタというか、こういう話が伝わってきたっていう中身がわかるかと思って持って来たんだが、丁度良かったな」
笑って本を開いたリンは、子ども向けの文章を読む。
そこに書かれていたのは、こんな物語だ。
むかしむかし、スカドゥラ王国南部の町に双子の兄弟がいた。しっかり者の兄とやんちゃな弟で、二人は正反対の性格をしていたが仲が良かった。
ある時、弟が町の近くの湖で釣りをしていた。彼の趣味は湖で魚を釣ることなのだ。
いつも通り家族の夕食分魚を釣り終えて帰ろうとした時、湖が光って弟の前に竜が現れた。竜は弟に、頼みがあると言う。
一方、兄は帰りの遅い弟を心配して湖へ探しに行った。すると、弟が得体の知れない何かと会話をしているではないか。弟を守ろうと、兄は弟の前に立って竜を睨んだ。
弟を守ろうとする兄の姿に感銘を受けた竜は、弟だけではなく兄にもある役割を依頼した。
曰く、竜はもう寿命を迎える。竜の代わりに、あるものを守り続け、時が来たら渡すべき者にそれを渡して欲しいという願いだ。
双子は死にかけの竜をかわいそうに思い、願いを引き受けた。その代わり、魂が消えずに生き続けるという代償を支払って。
今でもメレースでは、双子が死ぬ度に新たな双子が生を受ける。彼らは生まれながらにして話すことが出来、大昔のこともよく知っているという。町の人々は、双子が生まれると言い伝えの再来だとして祭りを開いて竜の願いが叶うよう祈る。竜の願いを正確に知っているのは、いつも双子だけだ。
童話を読み終え、リンはふむと腕組みをした。
「今も続いているのかはわからないけど、双子が生まれるっていうのは続いているらしいな」
「メレース、か。ここからどれくらいかかるんだろう?」
「さっき見たガイドブックでは、アンバーダリオから南に半日歩いたところにあるって書いてあったよ。乗合馬車があるらしいから、もう少し早く着けるかもね」
晶穂の疑問に答えたユーギは、論文を熟読するジェイスに声をかける。
「ジェイスさん、論文の方はどう?」
「ああ、そうだね。この論文でも、昔話に触れているよ。リン、こういう内容で会ってるかな? 『幼い双子が湖の竜に頼まれてある役割を引き受けた』っていう」
「はい、要約するとそうなります。そのいわれのある湖が鍵になりそうですが……他のみんなはどうだ?」
リンの問いかけに、ユキを始めとしたメンバーが口々に言う。メレースに関する記述が、最も探しているものに近そうだと。ジスターや春直も同様の記述を持って来た本で見付けたと言い、信ぴょう性が高まる。
「……あ、忘れてた」
ふと言葉を漏らした晶穂は、傍に置いていた古い本をジェイスに差し出す。差し出されたジェイスは、きょとんとした顔で晶穂を見返した。
「これは?」
「古い文字で書かれているんですが、読めなくて。ジェイスさんなら、読めるかもしれないと」
「わたしとて、全てに精通しているわけではないけどね。……大まかにはわかる、かな」
「本当ですか!」
ぱっと目を輝かせる晶穂にジェイスが頷いて見せると、傍で聞いていた克臣がニッと笑った。
「流石だな、ジェイス。昔から本という本を読み漁っていただけのことはある」
「茶化すなよ、克臣。それにあれは、
「そうだったな」
ふっと微笑んだ克臣は、ジェイスと共に銀の華初代団長ドゥラを知る数少ない団員だ。世話になった彼の言葉は、今も二人の心に刻まれている。
ドゥラは昔、ジェイスにこう言ったのだ。「息子には、お前のような傍にいてくれる誰かが必要だ。出来るだけ長く、あいつを支えてやってくれ」と。その言葉と自分自身の意志で、ジェイスはたくさんの知識を頭に入れて使いこなす。
ジェイスはドゥラとの約束を知らないリンが目を瞬かせるのに微笑み、晶穂から受け取った本を斜め読みする。すると、そこにもメレースの双子伝説について書かれていることが発覚した。
「どうやら、この話はかなり有名なものみたいだ。町の観光課なんかがあれば、そこで遺跡や関連施設なんかを教えてもらえるかもしれないね」
「まずは、そのメレースへ向かいましょうか」
それぞれに借りて来た本をまとめて返却棚に置き、リンたちは南部の町メレースへ一刻も早く向かうために馬車の乗り場を探すことにした。
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