第568話 食堂の戦い
リンと晶穂、ジェイスとユーギと春直がそれぞれ同じ部屋でゴーレムと対峙した。同様に克臣とユキ、そして唯文も別の部屋に飛ばされ途方に暮れている。
克臣たちは、気付くと食堂のような部屋にいた。部屋の半分を埋めそうな大きさのテーブルと複数の椅子が置かれ、四隅には燭台が配置されている。その燭台には蝋燭の火が灯り、柔らかな光を放っていた。
天井には豪奢なシャンデリアがあるが、テーブルの上には何も載っていない。ただし、食べ物は。
「……何だ、あれ」
年少者たちを背中に庇いながら、克臣は正面を見詰める。テーブルの上には崩されたロボットのようなものが
近付くか近付くまいか、それが問題だ。と悩む間もなく、克臣は先手必勝とばかりに大剣を振りかざして塊に向かって刃を振り下ろす。無言で。
「克臣さん!?」
「初手からですか!」
ユキと唯文のツッコミをスルーし、克臣は塊の反応を待つ。斬撃を受けてテーブルは真っ二つに割れ、塊になっていたものが跳ね上がる。そして、それは人型になって床に下り立った。
成り行きを見守っていた年少組は、そっと顔を覗かせてそれを見た。
「……ロボット?」
「いや、これ本物のゴーレムだよ」
「強敵ってやつだな」
言い合う年少組を背に、克臣はニヤリと笑った。
「物理的には耐性がある。俺と唯文はサポート、主戦力はユキってところか」
「……克臣さん、意外と考えてるんですね」
「唯文、お前……。俺を何だと思ってたんだよ」
「すみません。いつもジェイスさんが作戦立案しているイメージがあるので」
苦笑して謝る唯文に「お前な」と肩を竦めた克臣だが、次の瞬間には表情を変えた。
「ユキ、右斜め上!」
「うん!」
気配だけでゴーレムの攻撃に気付き、指示する克臣。彼の指示は的確で、ユキの放った手のひらサイズの氷柱がゴーレムの指を撃ち落とす。
ゴーレムは自らの指を弾丸として、こちらに向かって放っていた。まるで指鉄砲でも飛ばすポーズのゴーレムだが、攻撃はそんなに可愛くない。
和刀を抜き、唯文はそれを構える。そして、ちらりと隣に立つ克臣を仰ぎ見た。
「あの弾丸だけで済むと思います?」
「思わないな。前回の春直がやられた例もある」
「……ですね」
前回のとは、大樹の森にて守護獣の額からのビームを受けて春直が負傷した件だ。四足の獣であったために物理攻撃のみだと考えたわけではないが、突拍子もない攻撃に転じる可能性を考慮すべきだろう。
唯文はフッと息を吐くと、自分に向かって飛んで来た弾丸を斬って捨てた。動くものを追うのは至難の業だが、唯文は実戦経験を経て少しずつそれを可能にしている。
スパンッという小気味良い音が響き、小さな弾丸が床に落ちた。
「唯文。お前、どんどん動きが良くなってるな」
「ありがとうございます、克臣さん。手本がたくさんいますから」
克臣を始め、リンやジェイス。そして唯文にとっては、同年代の友人たちも手本だ。
「おれは、そんなたくさんのものを自分のものにしていきたいんです」
「……だったら、手本になるべき俺たちが倒れるわけにはいかないよな」
そう言って白い歯を見せた克臣は、自分の方へ突っ込んで来るゴーレムに対し迎え撃つため床を蹴った。乱射される弾丸を躱し、時にぶった斬って真正面からゴーレムの腕を受け止める。
ガキンッという金属音が重く響き、火花が散った。目をすがめ、力づくで突破しようとするゴーレムを押さえる。克臣は食い縛っていた歯の力をわずかに抜き、状況を見守るユキと唯文に指示を飛ばした。
「ユキ、こいつを足下から氷漬けにしてくれ! 唯文はユキに絶対に攻撃をあてさせるな!」
「はいっ」
「任せて」
唯文がユキの前に出て、警戒態勢に入る。そしてユキは、自分には絶対に攻撃が当たらないという信頼のもとで魔力を行使した。
「氷漬けにして、突破するよ。——
ユキの唱えた言葉が、そのまま魔力の形として現れる。彼の手から放たれた魔力がゴーレムに届いた瞬間、パッと花咲くように弾けた。
「克臣さん!」
「わかってる」
克臣はユキの魔力が放たれる直前にゴーレムを押し返してその場を離れ、追いかけて来ようとしたゴーレムを斬撃でその場に留める役割を果たす。よろけたゴーレムの足下が凍り付き、それに気付いた時にはゴーレムの体の半分以上が氷に覆われていた。
「――ギッ。ギギ」
どうにかして氷から逃れようと身をよじるゴーレムだが、氷は容赦なく体の自由を奪っていく。壊れかけのおもちゃのような音を出しながら、真っ白な目がユキを捉える。
その眉間が輝いたと見るや、唯文は考えるよりも先に体を動かしていた。
「――いっけえぇぇぇっ」
一閃。
斬撃が真っ二つのテーブルの作った道を真っ直ぐに通り、ゴーレムが何かを放とうとした眉間にぶつかる。パキッと何かが割れた音がして、ゴーレムの動きが鈍くなった。
「ユキ!」
「うん!」
すぐさまユキの魔力量が増え、氷の広がるスピードが格段に上がる。ゴーレムの抵抗を抑え込み、一つの氷像を作り上げた。
「――やった」
「よし」
「唯文、ユキ。よくやった。リンたちと合流するぞ、気を抜くな」
克臣は二人を集め、先に部屋の外へと出す。それから氷漬けのゴーレムが動かないことを確かめた上で、部屋の戸を閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます