第430話 砲弾を撃破せよ

 リンたちにとっては何度目かの砲撃は、一つではなかった。複数の砲弾が次々と落ちて来る。

「うわっ!?」

「ちっ」

 その内の一つが、春直の頭上を捉えた。思わず体を固くした春直の上に影が舞う。

 ―――ズズンッ

「びびった、本当に」

 克臣は着地と同時に大剣を振り、砲弾の欠片を振り落とす。咄嗟に春直の頭上に迫る砲撃を両断したのは克臣だった。

「流石に、障壁でも真上に落ちたらやばそうだもんな」

「あ、ありがとうございます。克臣さん」

「気にするな。次々来るしな」

 克臣の言う通り、飽きないのかと言いたくなるほどの砲弾が落ちて来る。障壁である程度の衝撃には耐えられる彼らは、それぞれに打ち返したり斬り刻んだりして迎え撃っていった。

「……火、水、雷か。これは誰の魔力だろうね」

 ジェイスが冷徹な笑みを浮かべてそれらの弾丸を叩き落とす。それぞれに発火し、みずをまとい、火花に似た電流を流しながら翔んできた物は、今や地面でくすぶっている。

 普通の黒い弾丸に混じって飛ばされて来る魔力を帯びた弾丸は、接近戦を得意とするユーギや春直には不利だ。彼らはその弾丸を仲間に任せ、自分たちは鉄球を躱しつつ蹴り落としたり切り裂いたりした。

「ユーギ、無理するなよ!」

「わかってる! けど、出来ることはやるから」

 飛んでくる鉄の塊を蹴り飛ばすユーギの足は、折れてない。豪速球の鉄球を生身で受け止めれば骨くらい砕けそうなものだが、そこには秘密がある。

 獣人の強靭さも勿論あるが、ユーギの足の甲にはジェイスの障壁が張られているのだ。それが弾を受け止める役割を果たし、ユーギはそれに己の蹴る力を加えているのだ。

「ジェイスさんのお蔭で、ぼくも戦えるから!」

 そう言って前線へと走るユーギを見送り、ジェイスは苦笑した。

「あまり、無茶はするなよ」

「大丈夫だろ。ユーギはわきまえて戦ってるさ」

 克臣の声がそう言って、斬撃を飛ばす。大剣に殴られて割れた弾丸が、耐えきれずに爆発を起こした。

 その爆風に髪を遊ばれ、克臣は短い髪をかき上げた。ニヤリと笑い、ジェイスの肩を叩いて行く。

「ジェイスも、魔力使い果たすなよ? この中で突出して多いけど、無尽蔵ではないんだからな」

「それこそ、わきまえてるよ」

「だよな」

 シシッと笑い、克臣もまた得意の大剣を振り回す。炎をまとった弾丸が肩をかするが、痛がる様子も見せずに切り刻んだ。

「全く、無茶はどっちだか」

 ジェイスは呆れ顔で克臣を見守っていたが、直後にユーギの障壁が傷付いていることに気付いて修復を施す。

「ありがとう!」

「やり過ぎないでくれよ、ユーギ」

「わかってる!」

 再び弾丸を蹴り飛ばすユーギに、ジェイスは苦笑いをして自分自身も加勢した。

 丁度翔んできた水をまとった弾丸に、寸分違わずナイフを突き刺す。水が勢いを失い、重力に従って落ちた。

 追撃のように、雷を帯びた鉄球が落ちてくる。ジェイスはそれをも迎撃しようかとしたが、その前に刀が一閃する。唯文だ。

「この弾、何処から飛んでくるんですかね?」

 正眼に魔刀を構え、唯文が問う。

「さて、ね」

 ジェイスは、ちらっと後方で弾丸を斬るリンへと目を向けた。エルハから連絡を受けたリンは、何か聞いていなかったか。

「リン!」

 弾丸の雨の隙間を縫うようにして、ジェイスがリンを呼ぶ。リンは、自分を呼ぶ声のした方向に顔を向けた。

「何ですか、ジェイスさん」

「さっき、エルハから何か聞いていただろう? この状況を説明するヒントはないかい?」

「ヒント……」

 しばし考えたリンは、あっと声を上げた。エルハは言っていたではないか、扉とよく似た力が二つの場所を結んでいると。

「扉が、現れたかもしれません。それによって、スカドゥラとソディリスラが結ばれた。そして、国に戻ったはずのベアリーたちが、扉を通ってこちらに攻撃を仕掛けている……?」

「おそらく、それであたってるよ」

 ジェイスが、弾がやって来る方向に人差し指を向けた。その指す先へと目を向け、リンは見付けた。

 小さいが、人物が二人。そして、大砲と思われる武器の口がこちらを向いている。

 そして、白く光る扉らしきものの存在。開けっぱなしの扉の向こうには、スカドゥラ王国があるのだろうか。

「あそこから……」

「あの大砲の飛距離は凄いな。どちらかの魔力で増幅させているんだろうけど」

 克臣の言葉に、リンは頷く。

「おそらく、あの男の方でしょう。ベアリーと名乗った女は獣人ですから、魔力を持ちません」

 敵の位置はわかった。攻撃は向こうからの一方的なもので、こちらは防戦のみである。

 克臣とジェイスの顔が「どうする?」とリンの判断を促している。ふっと息を吐き、リンは仲間たちを見回した。

「神庭を守る役と、あちらに攻撃を仕掛ける役とに分ける。相手は二人に見えるけど、扉を使えば何人でも兵士も武器の補充可能だ。その前に、再起不能に追い込む」

「何処かに隠れている可能性も、考慮しておかないとね」

 ジェイスのアドバイスに、リンは素直に頷く。そうですね、と言って腕を組む。

「ただ、ここを完全に空にするわけにも……」

「こちらは、我らに任せろ」

 何処にいたのか、レオラとヴィルがリンたちの頭上に巨大な防御壁を張った。それにより、飛んでくる弾丸がことごとく破壊される。

「つよっ……」

 思わずといった顔で呟くユキに、ヴィルが照れ笑いを浮かべて応じる。

「これでも、神と呼ばれる存在ですから。……わたくしたちがいる限り、ここには許可を得た者以外の何人たりとも通しません」

「ここのことは、元々我らがどうにかせねばならない。そこに、お前たちを入れて都合の良い頼みをする」

 レオラが言わんとしていることを理解し、リンは「今更だろう」と笑う。

「必ず、追い返す。俺たちが甘音と神庭を必ず守る」

「……頼む。我らが前に出れば、一国破壊しかねない。それでは、世界にとって不都合だ」

「でしょうね」

 話を聞いていた晶穂が乾いた笑みを浮かべる。スカドゥラ王国一国を壊せば、そこに住む人々が追われ、均衡は簡単に崩れる。

 レオラたちも自分たちも、スカドゥラを滅したいわけではないのだ。ただ、神庭から離れてほしいだけなのだ。

「……まだ、お別れ言えてないから。絶対、戻ってきてください」

「うん。甘音、待ってて」

 今にも溢れそうな涙を目の端にためた甘音の頭を撫で、晶穂は微笑んだ。その笑みを見て、甘音も何とか笑みを作った。

「いってらっしゃい」

 甘音とレオラ、ヴィルに見送られ、リンたちは神庭を出た。目指すは、ベアリーたちとの決戦である。

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