共闘作戦

第748話 集合

 リンはジェイスや克臣たち、離れた場所で戦う仲間たちの気配を探していた。彼らの気配を探し当て、あることを実行に移すために。

 荒魂の前に率先して立つユキに感謝しつつ、リンはジェイスとジスターの力の波動を頼りに彼らの気配に手を伸ばす。アラストには彼ら以外にもたくさんの魔種が住んでいるが、誰よりも慣れ親しんだ気配を間違えることはない。

(――いた)

 ここよりも東に、ジスターの気配を察知する。彼がいるということは、近くに克臣と春直がいるのだ。そして、彼らが戦う荒魂の欠片も。

 リンはユキに目で合図を送り、次いで晶穂と玲遠の方を振り向く。すると、晶穂が浅く頷いた。

(ごめん、晶穂。荒魂に悟られずに動くためには、俺も戦わないといけない)

 自分よりも体重のある、更に異性でもある玲遠を晶穂が一人で動かすのはほとんど不可能だ。リンが代われば良いのだが、そうすれば荒魂に目的を悟られる危険性があった。

 だから、ジェイスの力の使い方を参考にする。晶穂は荒魂が自分たちの方を見ていないことを確かめ、そっと力を使った。

 神子の力で結界として使う透明な壁を創り出した晶穂は、それを眠ったままの玲遠の下に滑り込ませる。そのまま浮かせ、リンが目で指示する方向へとゆっくり歩く。物陰に隠れながら行くのは、荒魂に悟られないため。

(リンは、何をしようとしているの?)

 確実なことはわからない。しかし晶穂は、何となくリンの考えていることが分かった気がした。不可能を可能にするためにやるべきことを、リンはやろうとしている。

「……絶対、大丈夫!」

 晶穂がそう革新して歩いて行く近くを、ユキが荒魂を相手取って空を駆けて行く。

 冷気をまとい、傷を癒やしながら荒魂への攻撃を止めない。ユキは間一髪で急所を避けながら、確実に荒魂の体力を削っていく。

「届いてないぞ、荒魂!」

「馬鹿め。それだけ傷を受けてまだ言うか!」

「生粋の魔種を舐めるなよ!」

 大声に大声で返しながら、ユキは人通りの多い道を通らないよう高度を上げた。このままでは、走り始めた晶穂たちに荒魂が気付く恐れがある。

「兄さん!」

「ああ」

 リンもまた、翼を広げ空を駆る。ユキより先行し、ジスターたちの姿を探しながら剣を操った。

 弟の意図を汲み取り、リンは一度戻って荒魂に斬撃を仕掛ける。怯む様子すらない荒魂に舌打ちしそうになるのをぐっと堪え、もう一閃してユキと共にその場を離れた。

「逃げるな! それとも怖気付いたか!?」

 荒魂は、リンたちが逃げていると勘違いしている。しかしそれこそ、彼らの狙いでもあった。

「兄さん」

「この先、見えるか?」

「――うん!」

 二人の視線の先、住宅地郊外の空地から強い魔力のぶつかり合いが感じられる。戦闘音も凄まじく、リンたちは自分たちの狙いがあたったことを知った。

「……む」

 しかしリンたちが気付いたということは、荒魂も同じということになる。案の定、荒魂は自分の分身の気配に気付き、ふっと笑みを浮かべた。

「成る程、な」

「ようやく気付いたか、荒魂」

「我ながら、乗せられてしまったようだな。しかし……我ら二人を集めても、まだ足りぬぞ?」

「それは問題ないよ!」

 嘲笑う荒魂に、ユキが元気に反論する。荒魂が再度問う前に、地上からリンを呼ぶ声が聞こえた。

「団長! ユキ!」

「来たか、ユーギ」

「遅いよ」

 ユキが地上に降りると、ユーギと唯文、そして天也が笑顔で迎えた。

「みんな無事?」

「うん!」

「当然だろ。こんなところで、くたばってはいられない」

「それもそうか! 天也は?」

「ああ、大丈夫」

 仲間たちの無事を確かめ、ユキはほっと息をつく。しかしそこにいるはずの青年の姿がないことに気付き、首を傾げた。

「そういえば、ジェイスさんは……?」

「あっち」

 唯文が指差した方を見たユキは、驚いて目を見張った。

「ジェイスさん! いつの間に」

「あの人、意外と戦闘狂だよな」

 彼らの視線は上に向かう。背の高い建物の少ないアラスト郊外で、ジェイスの白い翼はよく映えた。

 ジェイスは、自分たちがここに連れて来た荒魂の三分の一と対峙している。更に相手からの攻撃全てを、受け止め受け流し打ち返す。当然リンや克臣たちに気付いているだろうが、地上からは連携まではわからない。

「そういや、橙は?」

「あっち」

 ユーギが指差した方には、ジェイスの魅力を感じる四角い箱が置かれていた。小屋くらいの大きさのそれは真っ白で、見た目には中に何が入っているかは見えない。

「あの箱の中に、気を失ったままの橙を寝かせているんだ」

「……それ、追加可能?」

「だと思う。じゃなきゃ、あんなに大きな箱は創らないと思う」

 最初は小さかったんだ。ユーギの言葉を受け、ユキは思いっ切り息を吸い込んで叫ぶ。

「――ジェイスさん!」

「やあ、ユキ」

「玲遠とデニアを!」

「了解」

 ユキが何を言いたいのか察したジェイスは、すぐさま眠ったままの玲遠とデニアを見付け出した。玲遠と共にいた晶穂と春直はギョッとしたが、即座にジェイスの気配を感じて彼らを委ねる。

「――え、ジェイスさん!?」

 思わず声を上げた春直の声に驚き、克臣とジスターは仲間たちが集合していたことに初めて気付いた。

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