第749話 合体
荒魂に踏み付けられていたデニアをどうにか救出したものの、彼は気を失っていた。克臣はやむなく、春直に彼を任せて荒魂と戦っていたそんな時のこと。突然幾つもの親しい気配と敵意が近付いて来たと思った直後、一気に騒がしくなる。
克臣はちらりと空を見て、それからクスッと笑って肩を竦めた。
「全員来たのか」
「そうみたいですね。でも、どうして……」
かなり離れた場所にそれぞれいたはずだ。それに、何故こんな事になったのだろうと唯文は首を傾げる。
後輩の疑問顔に答えを与えたのは、自分が甘音から聞いたことも含めて考えた克臣だ。
「荒魂を全員集めて同時に倒さないと、レオラの中に封じることが出来ないってことだろうな」
「……確かに、何度も復活しますからね」
ジスターは、自分たちの前にいる荒魂を見てそう言うしかない。
実は克臣と春直と三人で、何度かギリギリのところまで荒魂を追いやった。しかし、何事もなかったかのように復活したため手を焼いていたのだ。
同じ時、春直は目の前から消えたデニアの行方をキョロキョロと探していた。ジェイスの気配を感じたことから、彼の姿を。
「――春直!」
「え、みんな!?」
ぎょっとした春直が振り返ると、そこには年少組として一括りにされがちな友だちがいた。
「どうして……」
「話は後! 今はみんなで荒魂をやっつけるよ!」
「みんなで……そっか」
春直にとって、克臣は命の恩人でジスターは新たな仲間のお兄さんだ。彼らだけでも充分頼りがいのある大事な存在だが、全員が揃うとまた別の話になる。
(みんないるから、大丈夫)
既に克臣とジスターも気付いていて、少しだけ表情が柔らかくなっている。三人だけではなく、九人だからこその力強さ。春直は駆けて来た仲間たちと共に、改めて荒魂と向き合った。
「なんとなんと」
「いやはや、集めて一網打尽というわけか」
「それはなんとも」
荒魂たちは一ヶ所に集まり、互いに顔を見合わせる。そして同時に呟いた。
――浅はかよの。
クックックと笑い出し、途端に三人が黒く輝く。リンたちが驚き見守る中、三人は一人の荒魂となった。
「……ふぅ。この姿は久し振りだな」
肩をコキコキと鳴らし、荒魂は自分を見つめる複数の目に向かって余裕の笑みを向ける。
「三分の一の時は、その分しか力が出せない。残念だったな、お前たち」
言外に、今や本当の力で応戦出来ると示す。元に戻ってしまえば、ただの魔種や獣人の力など、荒魂にとっては小さいものに過ぎない。
その言葉が嘘ではないことは、彼がまとう空気からもわかる。魔力は三倍以上に膨れ上がり、ビリビリと空気を震わせた。
リンは一旦翼を仕舞い、宙に浮く荒魂を見上げる。そんな彼の元には、ジェイスと克臣がやって来た。
「さあ、どうしようか?」
「真っ向から行くしかないだろ。俺たちにあるのは、仲間っていう武器だけだ」
「……かっこいいこと言うなぁ」
「うるせ」
茶化され顔を赤らめた克臣が、トンとリンの頭を撫でる。
「荒魂をどうにかしようぜ、リン。もう一度封じるために」
「――はい。その上で、レオラを引きずって来なくては」
「だな」
「一先ず、何処まで出来るかやってみようか」
どんな時でも、ジェイスと克臣はリンの背中を押してくれる。やめろと言うことは、本当に危ない時以外はほとんどない。
(だから、俺は無茶もしてしまうんだろうな)
ある意味で甘やかされている自覚を持ちながら、リンは近くで待機する弟たちと目を合わせた。
「……」
「……」
年少組は何も言わない。さっと視線を走らせれば、天也は晶穂と共に少し離れた場所にいた。更にその向こうには、ジェイスが創ったという玲遠たちのシェルターも見える。
人の住む地域からは離れ、少々暴れても被害はほとんどない。勿論、何も壊さないのが最良だが。
「……やるべきことは決まってるよな」
全員今までの戦いで疲弊している。それでもここに立っていて、一緒にいるのだ。これほど心強いことはないとリンは思う。
対して、荒魂はリンたちのざわつきをニヤニヤしながら見ていた。まとまりのない状態の時に仕掛けて来ないのは、彼の余裕の現れか。
「覚悟は決まったか?」
「さて、どっちのだろうね」
ジェイスの煽りを無視し、荒魂はパチンと指を鳴らす。その瞬間、彼の頭上に大きな魔力の塊が出現した。
「――失せろ」
感情のない声が発せられた時、力が爆発した。
「――っ」
「どうしましたか、レオラ」
神木に触れていたレオラが、突然びくりと肩を震わせた。傍にいたヴィルアルトが問い掛けると、彼は瞼を上げて眉間にしわを寄せる。
「奴が元に戻った。確かに三人同時に倒すことはほぼ不可能だが、出来ないわけではない。だが一人に戻ってしまったとなると……」
口にはしない。しかし、レオラから見ればリンたちの選択は最悪だ。
(何故、この世界の構築者である神の荒魂を最悪の形で相手にするんだ!?)
荒魂は、文字通り神の荒ぶる姿。互いの力のリミッターを外して戦った場合、和魂は荒魂に勝つことはかなり難しい。レオラ本人ですら、出来ることならば直接対決は回避したいのだ。それを自ら引き寄せる銀の華に、レオラは困惑していた。
「……それでも、貴方は彼らを信じているのでしょう? 神と神が戦うことは、世界の禁忌。世界の破壊を防ぐためには、誰かに荒魂を鎮めてもらうしかないのですから」
「……わかっている」
ヴィルアルトに腕を取られ、レオラはふいっと顔を背ける。嫌がってはいないことを知っているから、ヴィルアルトは小さく微笑んでから表情を変えた。
「大丈夫です。貴方の選んだ者たちなのですから」
妻の言葉に、レオラは無言で頷いた。
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