第476話 華やかなパフォーマンス
一気に照らされ明るくなったステージに、弾むような明るい音楽が響き渡る。思わず目を閉じたユキたちは、観客の大歓声を聞いて目を開けた。
「うわあっ!」
目を輝かせる少年たちの見る先では、何人ものピエロが曲芸を披露していた。色とりどりの衣装を身に着けた彼らは、ボールやリボン、バトンを使ったパフォーマンスを繰り広げる。
その中でも、観客の目は二人のピエロに集まった。
一人は、猫人の青年。もう一人は、同じく猫人の若い女性。
二人はピエロの列から抜け出すと、ステージの両端に付けられた梯子を素早く上って行く。頂上はテントの天井に近く、ユーギたちは上を向いて彼らを追った。
「さあ、これからお見せするのは綱渡り! たった一本の綱の上、二人は左右の端からそれぞれ歩き出します」
何処からか聞こえて来るのは、イザードの声。マイクを通しているのか、こちらを煽るような声が反響する。
イザードの声に導かれるように、男女のピエロは同時に一歩を踏み出す。危なげないその足取りは、寧ろ観客をハラハラとさせ、注目の度合いは急上昇する。
勿論、その興奮は年少組も例外ではない。
「ねぇ、あのまま行ったらぶつからない?」
「ぶつかるよな? でも……あっ! ビックリした」
「あれ絶対わざとだよ。だって余裕そうだもん。……?」
青年がバランスを崩し、綱から落ちかけた。それを見た客席から悲鳴が聞こえ、ユーギも耳をペタンと垂らす。
しかしすぐに持ち直し、青年はニヤリと笑って綱渡りを再開した。
なんとなく目が合った気がして、春直は首を横に捻った。そして、まさかそんなわけもないと思い直す。
「真ん中まで来た。これからどうす……あっ!」
「おおー! すごいすごい」
「あんな曲芸、見たことない」
「どれくらい練習したんだろ」
四人それぞれが歓声を上げたのとほぼかと、彼女がしゃがんで合図をする。それに頷き、青年は彼女を思い切り上に放り投げた。
女性は自らの体を青年の頭の上で数回転させ、反対側に見事着地する。スタッと舞い降りた。
笑顔で歓声に応じた女性は時あ客席からは割れんばかりの歓声が響き渡った青年の背中をトンッと押し、自らも歩き出す。
背を向けた二人は、見事に綱を渡り終えた。
そして音楽が変化し、ステージの様子もがらりと変わる。先程まで曲芸を披露していたピエロたちがいなくなり、代わりに小柄な女性が現れる。彼女は滑らかな生地で作られた光沢のあるドレスを着て、たおやかに腰を折った。
「皆様、楽しんで頂けていますか? このサーカス団で歌姫を務めております、ゼシアナと申します」
ゼシアナと名乗る女性は再び深々と礼をすると、マイクを持ち話し出す。
「最終日となった今日は、皆様により楽しんで頂けるよう、我ら団員一同、一層心を籠めてパフォーマンスさせて頂きます。――それでは、最後まで是非目を離されませんよう」
落ち着いた物腰のゼシアナは、ゆっくりとした足取りで照明の届かない暗い場所へと下がっていく。彼女のその後を、何人もの男性客が目で追っているのが見えた。
ユーギは隣に座るユキに、ひそひそと話しかけた。
「あの人、綺麗な人だね」
「うん。でも、晶穂さんとか真希さんとかぼくらの周りにいる人の方が綺麗かな」
「確かに」
最早、それは好みの問題だ。呆れた唯文はツッコミを入れる気にもなれず、嘆息気味に注意する。
「お前ら、周りを敵に回すような話は慎めよ?」
唯文に注意され、二人は肩を竦める。確かに周りの男性客の視線が痛いような気がした。三人の様子を見て、春直は苦笑した。
「――ほら、今度は猛獣のショーみたいだよ!」
空気を変えようと、春直がステージを指差す。四人の少年たちが注目した先には、巨大な猛獣を引く青年の姿があった。
「あの人……イザードさんに似てる?」
――ウオオオオォォォォォッ
春直の呟きをかき消すように、猛獣が吼える。四つ足でステージを踏み締める獣は、獅子に似た立派な
青年はよしよしと獅子似の獣の首元を撫でると、手でその場に留まるようにと指示を出す。獣がその場に腰を下ろすと、青年は大股で歩いて距離を十分に取った。
そして獣と目を合わせると、パッと勢いよく右手を振り上げる。その瞬間に魔力が発動し、巨大な水のリングが姿を現した。
何もない所から突然水柱が現れたことで、テント内が沸く。ユーギも思わず感嘆の声を上げた。
「あの人、魔種なんだ」
「しかも……かなり強い魔力を持ってるみたいだ」
「わかるの?」
「まあ、同じ魔種だし。何となく、ね」
心もとなく肩を竦めたユキだが、その視線は猛獣使いの青年に注がれる。
ぐるぐると勢い良く回る水のリングを指差し、青年が「来いッ」と獣に向かって叫ぶ。すると呼応するように唸った獣は、足で地面を蹴って猛スピードで駆け出した。
そのままリングにぶつかる、誰もがそう思った時。獣はトンッとリングの手前でジャンプする。
獣の体はリングを見事通り抜け、砂煙を上げることもなく青年の真横に着地する。そして、客席からは大きな拍手が贈られた。
「――さあ、これが最後のパフォーマンスです」
見事なパフォーマンスが続き、客席は酔い痴れる。しかし時間は無情に過ぎ、イザードの言う通り閉演の時間が近付いていた。
終わりを惜しむように、割れんばかりの拍手と歓声が沸き上がる。イザードはそれらを手で制すと、美しい顔でにこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。皆様には最後にとっておきのコンサートをお届けし、この町での終演とさせて頂きます。――さあ、歌姫の登場です!」
「皆様、お待たせ致しました」
イザードに迎えられたのは、途中で進行役をしたあの女性、ゼシアナだった。
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