第678話 あれの出現
ユーギの蹴りを受けてぐらりと白龍の体が
「一発じゃ無理だよね、やっぱり」
「だけど、一発入れられちゃった!」
凄い凄い、とテトラが手を叩く。しかし無邪気に笑っていたのはそこまでで、不意に手を下ろすとトモラと手を取り合って表情を変える。
「トモラ」
「テトラ」
「「ここから畳み掛ける!!」」
双子の威勢通り、白龍の体が光り輝く。そこから魔力の増強を感じ取り、リンは急遽バリアを張った。
すると案の定、白龍が口を開けて光線を吐き出す。龍の体よりも輝き白いそれは、バリアを吹き飛ばそうと徐々に勢いを強めていく。
「くっ……」
じわじわと手が痺れを訴えてくる。リンは奥歯を噛み締め、仲間全員を守る光の壁を支えていた。
わななく右手が耐え切れずに外からの力に弾かれそうになった時、温かいものがリンの手を包み支えた。
「リンッ」
「晶穂」
右手を掴んだのは晶穂だ。彼女は神子の力を解放し、リンの力を補完しながら自らの力を合わせてバリアを強化する。
もう一方、左もまたジェイスが支えた。彼の強大な魔力が更に加わることで、光線の勢いに押されかけていた光の壁がその輝きを増す。
「ジェイスさん……」
「まだまだ序盤、だろ?」
「はい」
リンは二人に支えられながら、目を閉じて大きく深呼吸した。すると少し冷静さを取り戻し、左右二人の魔力を自分の中に取り込むことが可能になる。
晶穂とジェイスは、銀の華の中でも守りの力の強いメンバーだ。彼らがバリアに加わることで、敵から見ると更に攻めにくい状況を作り出す。
「うまい、なぁ」
「守られるだけじゃ……ないから!」
叫ぶと共に身にまとっていた氷の欠片を放ち、ユキはニヤリと笑う。光のバリアの表面を駆けた魔力が結晶化し、白龍の創り出す光線を押し返す。
「阿形、吽形!」
ジスターに呼ばれ、阿形と吽形は魔獣の力をまとって飛び出す。彼らはユキの氷の力を借りて、
「……!?」
尾の一部や体の所々が凍り、白龍は氷を弾き飛ばそうと体をくねらせる。そこへ、和刀を構えた唯文と爪を伸ばした春直が襲いかかった。
「おおぉぉぉぉっ」
「はぁぁぁぁぁっ」
「――ッ」
「躱せ、龍!」
トモラの命令に応じ、白龍が見をよじらせて刃を躱す。しかし完璧に躱すことは出来ず、浅い傷が出来る。
「なかなかやるね!」
テトラはぴょんぴょん跳ね、トモラは悔しそうに顔をしかめた。
「テトラ、はしゃぎ過ぎ」
「だって、楽しいじゃない?」
くすくす笑ったテトラは、「ね?」と後ろを振り返る。そこには、軽傷を負った白龍がたたずんでいた。
白龍は体に傷を受けたことが気に入らないのか、ブルルッと鼻を鳴らす。そしてテトラになでてもらうと、再び空へ舞い上がった。
リンたちはバリアを解除し、バラバラに散って白龍の攻撃に備える。いつでも反撃出来るよう、各々の武器を手にして。
「ね、トモラ。そろそろアレやっちゃおうよ」
「テトラ。それなら、周囲一帯にバリアを張らないと。全て消し去りかねない」
「全て消し去りかねない、だって!?」
ユーギが素っ頓狂な声を上げると、双子は同じ顔をして笑った。いたずらが見付かった幼子そのものの、楽しげにも見える顔だ。
「そう! ぼくら二人で考えた、とっておきなんだ」
「今まで一度も使ったことがない大技だから、どうなるかわからないんだよ」
「そのドキドキを君たちに味わわせてあげる」
双子は手を繋いで、そのまま振り上げる。そして、同時に彼らの体から多大な魔力に似た力が立ち、白龍のもとへと吸収された。
双子の前で、白龍が体を震わせた。
「見て! 怪我が治っていく」
晶穂の言う通り、双子から力を得た白龍の体の傷がどんどんと治っていく。元気になったらしい白龍は一声叫ぶと、改めてリンに向かって突進を開始する。
正面から見つめられて目が合い、リンは剣を構えて空を見上げた。
「俺か!」
「リン、気を付けて」
「はい」
ジェイスの声に頷き、リンは剣を横に持って突っ込んで来た白龍の額を受け止めた。ガキンッという音がしたのは、龍の頭が鉄のように硬かったから。指の痺れも感じ、リンが剣に魔力を集めながら弾き飛ばす機会を窺っていた。
「――っ」
一瞬、白龍の圧力が止まる。その隙に剣を思い切り横薙ぎにして龍を弾いたリンは、双子の言う『アレ』の正体が示される前に終わらせようとうねりながら飛ぶ白龍に真正面から斬撃を浴びせた。
「いっけえっ!」
「加勢します!」
唯文がリンに呼応して斬撃を放ち、春直が操血術を用いて白龍の動きを止めようとする。しかし春直が動くのとほぼ同時に、双子が白龍に命令を下した。
「「白龍、薙ぎ払え!」」
双子の命令を受けた龍は一声呻ると、突然背中に巨大な翼を生えさせた。白龍の体と同じく真っ白なそれは、鳥の羽よりも蝙蝠のそれによく似た形をしている。
翼が開き羽ばたいた時、丁度近くで和刀を振り抜いた唯文にぶつかり、彼を突き飛ばした。
「――ぐあっ」
「唯文!」
真面にぶつけられた唯文は抵抗出来ずに吹き飛ばされ、木の幹に打ち付けられそうになる。しかし間一髪、ジスターが水の塊を作ってクッションにしてくれたために無傷で地面に降りることが出来た。
「助かりました、ジスターさん」
「無事でよかった。……だが」
ジスターの声に苦々しいものが混じる。
銀の華の前に立ちはだかったのは、大きな翼という新たな武器を得た白龍だった。
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