第674話 役割
「あ、兄さん」
リンたちが役所を出ると、晶穂たちが近くの空き地で待っていた。四人に気付き、ユキが最初に駆けて来る。
「お帰り。どうだった?」
「かなりの収穫、かな。双子星の父親だという人に会ってきた」
「双子星って、あの伝説に出て来る?」
「本当にいて、今も続いていたんだね」
目を丸くした晶穂も歩いて来て、リンは「そうみたいだ」と頷いた。
「その父親、アサルトさんの仕事が終わったら、ご自宅に案内して下さるらしい。後一時間くらいしたら定時だと言っていたから、それまでは別のことをしていようか」
ジェイスが言うと、春直が「別のこと……」と指をあごに触れさせる。
「種について、聞き込みしますか? でも種については、その方の方が詳しそうですよね」
「そうだね。だから、腹ごしらえに行こう。この近くに美味しい定食屋がある、とアサルトさんが教えてくれたから」
「賛成!」
ユキとユーギが手を挙げて同意を示し、一行はアサルトオススメの定食屋で早めの夕食を摂った。
食事を終え、会計を済ませて店の外へ出る。すると既に日が暮れており、冷気が風に乗って流れてきた。
「……くしゅんっ」
「晶穂さん、大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう、春直」
思わずくしゃみをした晶穂だが、春直に笑って応じた。室内との温度差に体が驚いたようだ。
ジェイスはきょろきょろと周囲を眺め、店内で見た時計の時刻を思い出す。
「そろそろ時間だし、わたしたちから迎えに行こうか」
「だな。行こうぜ」
克臣が号令をかけ、八人は役所へと戻る。
その途中、彼らの進行方向から誰かがこちらへやってくるのが見えた。よく見ると、それは役所で出会ったアサルトだ。
「アサルトさん」
「よかった。こちらに来て下さる途中だったのですね」
アサルトよりも早く駆けて彼に近付いたリンたちに、アサルトは言う。そして、先程よりも増えた人数に少し驚いた様子を見せる。
「聞いていましたが、お仲間はたくさんおられるのですね」
「あっ。お邪魔するのに、人数が多いですよね。わたしたちは別のところで待っていても良いので、遠慮なくおっしゃって下さい」
晶穂がそう言うと、アサルトは申し訳無さそうに頷く。
「旧家とはいえ普通の家なので……場合によってはお願いするかもしれません」
「わかりました」
勿論、銀の華は無理を言っている立場だ。だからアサルトが否と言えば、人数も絞り、最悪の場合自力で種を探す心積もりでいる。
晶穂を始め、全員が心得ている。だからジェイスは手元の端末を操作して、待機組のために宿泊場所を調べていた。
「アサルトさん、三人程お邪魔しても宜しいですか? その他は宿で待機ということで」
「三人ならば、全く問題ありませんよ」
「だったら、リンとユキ、あとジェイスが良いんじゃねぇか?」
アサルトの返答を聞き、克臣が指を折りながら指名する。
指定された三人は軽く目を丸くしたが、特に反論はない。また、その反対のメンバーも頷く。誰が行ったとしても、やるべきことはきちんとやるとわかっているのだ。
しかし、ジェイスは首を傾げた。
「良いのか、克臣」
「何が?」
「行きたがるんじゃないかって思ってたから。ちょっと意外だったんだよ」
「役割はわかってるつもりだぜ? 俺は留守番組を守る役に徹するってな。こういう時、冷静な判断力と愛想の良さを持ってるやつが必要なんだよ」
「克臣がそう言うなら」
ジェイスが納得し、アサルトについて行くメンバーが決まった。
しばらく歩くと四角があり、そこで二手に分かれることになる。リンたちは真っ直ぐに、晶穂たちは右へ曲がる。
「じゃあ、また後で」
「うん。双子さんに宜しくね」
「では、行きましょうか」
アサルトについて行くリンたちを見送り、晶穂たちは宿へと向かった。
ジェイスが見付けた宿は、メレースに三つある宿の一つ。その四人部屋二部屋とシングルを一つ借り、一先ずそれぞれ荷物を置いてから克臣のいる部屋に集まった。
「まあ、部屋割りは後で決めてもいいと思うんだが……希望はあるか?」
「いつも通りで良いと思うけど、どう?」
ユーギの言ういつも通りとは、年齢で二つに分ける分け方だ。克臣は趣向を変えるかと提案したわけだが、要らぬ気を回したらしい。「それでいいならいいけどよ」と笑い、上着のポケットから端末を取り出した。
「お、ジェイスたちは双子の家に着いたらしい。俺たちは大人しく待ってれば良いわけだが、何か議題があるやつはいるか?」
「……議題というわけじゃないんだが」
そっと手を挙げたジスターを、克臣は喜々として指名する。
「お、じゃあジスター」
「はい。オレはまだみんなと行動を共にするようになって日が浅いから……色々、教えて欲しい。勿論、今は種を探すのが先だから残りの場所を推測するのが先だと思うが」
「良いんじゃないですか? おれは賛成です」
「ぼくも!」
「折角の機会ですもんね。ぼくたちも、ジスターさんのこともっと知りたいです」
唯文とユーギ、春直が次々に賛成する。
思いがけない反応だったのか、ジスターは助けを求めるような顔で克臣を見た。しかし克臣も、そっちの意味で彼を助ける気はない。
「全部話すと時間は足りないだろうな。だから、それぞれの出自というか、銀の華に入ったきっかけを話していくのが良いんじゃないか?」
「ノリノリですね、克臣さん」
くすくす笑う晶穂に、克臣は「乗りたくもなる」笑う。
「折角、ジスターが自ら首を突っ込もうとしてくれてんだ。この機を逃す手はないよな」
「そうですね」
「じゃあ、まず俺からな」
克臣がベッドの上に胡座をかき、幼少期のことから話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます