第675話 双子のトモラとテトラ
一方、リンはユキとジェイスと共にアサルトの自宅に迎えられていた。事前に連絡をアサルトがしていてくれたのか、彼の妻はリンたちを見て戸惑うこともなく家の中に入れてくれた。
「誰?」
「だあれ?」
「お父さんの知り合いでな、お前たち二人に会うために来てくれたんだ」
「ぼくらに」
「会うために?」
双子は、五歳の男の子二人だ。積み木で遊んでいたが、じっとリンたちを見上げている。
リンは彼らの警戒心を少しでも和らげるため、彼らの前にしゃがんだ。そして「そうだ」と頷く。
「俺はリン。銀の花の種を手に入れるために、ここへやって来た。きみたち二人がそれについて詳しいとアサルトさんに聞いたから、話を聞きたくて無理を言った」
「……トモラ」
「ぼくはテトラ。リンお兄ちゃん、よろしくね」
右の物静かな方がトモラ、左の人懐こそうな方がテトラというらしい。リンに続き、ジェイスとユキもそれぞれに自己紹介をした。
トモラとテトラが、ちらりと父親のアサルトを見る。彼が気付くと、テトラがタタッと駆けて父親に抱き着く。それに続いたトモラは、父の服の裾を握った。
「えーっと……」
黙って自分を見つめる双子に対し、リンはどうしたら良いのかわからない。一先ず立ち上がろうと膝を立てた時、テトラが言い出す。
「お兄ちゃんたちの言う通り、ぼくらは銀の花の種が何処にあるか知ってるよ」
「だけどそれを手に入れたかったら、ぼくらの出す試練を乗り越えてもらわないといけないんだ」
「今までの守護もそうだった。きみたち二人からは、どんな試練が課されるんだい?」
ユキが問いかけると、トモラが何かを言いかける。しかしその前に、テトラが「ふぁぁ」と大きな欠伸をした。
「……眠い」
「そういえば、もうそんな時間ですね」
舟を漕ぐテトラをあやすアサルトに、リンは肩を竦めてみせた。部屋の壁に掛けられた時計を見ると、既に九時に近い。五歳だという双子は、もう寝る時間だろうか。
「子どもたちにこれ以上話を聞くのは酷でしょう。顔合わせは出来ましたし、今夜のところはお暇します」
「ああ、申し訳ないです。あなた方の話を聞く限り、一刻でも早くと思ったのですが……」
「そのお気持ちで十分です。明日、またお邪魔します」
「はい。明日は私も休みですので、お待ちしております」
寝てしまったテトラを抱いたアサルトと彼の服を掴むトモラに見送られ、リンたちは宿へと戻ることにした。宿へ向かって歩き出すリンの隣に来て、ユキが不安げに兄を見上げる。
「兄さん、大丈夫?」
「何がだよ、ユキ? 俺は大丈夫。明日、双子に試練について聞かないといけないからな。……勿論、不安がないわけじゃないが、眠たがっている子どもを無理矢理起こすわけにもいかないだろう」
「そりゃあそうなんだけど……」
ユキの頭の中には、昼間に晶穂から教わったリンの体に広がる痣の現状が浮かんでいた。幾何学模様の不気味なそれは、既にリンの体を蝕んでいる。八つの種を手に入れたことで痣の広がるスピードは緩和されているはずだが、予断を許さないのが実情だ。
(兄さんが人前でグローブを外さないのは、痣がそこまで広がっている証拠かもしれないって晶穂さんが言っていた。……一秒でも早く、痣が全身を覆う前に解毒しないと)
一人で気負っても仕方がない。それはわかっているが、自分が何をしたいのかを確認することは大切なことだとユキは思う。
(それに、あの毒の呪いはもしかしたらぼくに降り掛かっていたかもしれないんだから)
一方、リンはじわじわと攻防を繰り広げている種と痣の力をその身に感じていた。種が八つ集まったことで、毒の力はかなり抑えられている。しかし、いつ毒の力が爆発するかわからないために気が気ではない。
(あと二つ、確実に手に入れる。だけど、無理強いだけはしない)
銀の花の種は、この世界のものだ。それを忘れないように、とリンは己に言い聞かせる。
「……」
それぞれに、思うところがあって考え込んでいる。兄弟を後ろから見守っていたジェイスは、ふっと微笑んで二人の間に入ると彼らの方に手を乗せた。
「わっ!」
「ジェ、ジェイスさん!?」
「ほら、みんな待ってる。宿に行こうか」
「お、重いです……」
わざと体重をかけてやれば、ユキが肩をぷるぷると震わせる。リンもまた無言で耐えているのは、体格の違いが大きいだろう。
ジェイスは小さく笑って二人を解放すると、彼らの背を軽く押しながら宿への道を進んだ。
「重かったんですけど!」
「ごめんごめん」
隣で言い合うユキとジェイスの声を聞きながら、リンは背中に触れているジェイスの手の温かさを感じていた。絶対に大丈夫だと励まされている気がして、少し心が軽くなる。
「ジェイスさん」
「どうした、リン?」
「……ありがとうございます。ユキも、ありがとな」
「うん」
「どうしたの、兄さん。突然」
「なんでもない。ふとそう思っただけだ」
ユキに問われ、リンは急に照れてしまいそっぽを向く。それをユキに覗き込まれ、視線から逃れようと彼の目の前を手のひらで覆った。
「なにするんだよー」
「お前が突然覗き込んでくるからだろー!?」
そんなじゃれ合いを始める兄弟を見て、もう大丈夫かと義兄は笑った。
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