荒魂との戦い
第739話 土の巨人
克臣と春直、ジスターは並んでアラスト中心部へと歩いていた。何となく会話が徐々に減り、互いに視線を交わし合う。
「いる、よな」
「気配が……敵意が強いです」
「この気配は、下?」
春直が呟いた時、突如足元の土が盛り上がった。盛り上がった土からジャンプして逃れた春直は、着地後に自分がいた場所を振り返ってぎょっとする。
「――デニア」
「よお、元気そうだな」
ニヤリと笑った大男は、土の中から現れた。それなのに土や泥で汚れておらず、呼吸が乱れた様子もない。
「もぐらみたいな奴だな」
「もぐら、土の竜か! それはオレにぴったりだな!」
ハッハッハと豪快に笑ったデニアは、笑いを収めるとカンフーのような姿勢を取って克臣たちを睨みつけた。
「我らを邪魔する者は、ここで成敗してくれよう」
「やれるもんなら、やってみな!」
克臣が大剣を上段から叩きつけたのを皮切りに、春直とジスターが飛び出す。
春直の猫の爪が空気を裂き、デニアを真上から襲う。
「はぁぁぁっ」
「――ふん!」
「!?」
春直の爪がデニアの頭上に突き刺さることはなく、人の頭ほどある岩に阻まれた。ガキンッという音で爪が割れたのではないかと危ぶみ、思わず手を引く。
「春直!」
「大丈夫、です! いけます!」
「負け惜しみを」
デニアは笑いながら、拳を地面に叩きつける。その衝撃で、水面を叩くとその両側の水が巻き上がるように、砂も土も石も全てが噴き上がった。
「くっ」
「視界が」
「押し流す!」
ジスターが魔力を解放し、彼を中心に洪水のような透明な水が溢れる。克臣と春直を器用に避け、デニアの起こした土砂を押し流す。
更にジスターは魔力の使い方を変え、大量の水の姿かたちを変化させる。水は半透明の体を持つ龍となり、一声吠えると守るものを失ったデニアに向かって滑るように接近した。
デニアは水の龍が自分に突進して来るのを見ると、左右の拳をぶつけ合って気合を入れる。逃げることなく、受け止める気であるらしい。相撲取りのように構え、楽しげに叫んだ。
「龍か! 巨体対決といこう」
「水の龍よ、全てを押し流せ!」
普段は水の魔獣である阿形と吽形を操ることで戦うジスターだが、魔力の形を変えれば様々な戦い方をすることが出来る。その中でも水の龍を選んだジスターは、巨石のような硬さを持つデニアに真っ向から挑む。
ジスターの水の龍が大きく口を開けてデニアを呑み込もうとした瞬間、デニアが雄叫びを上げた。
「さあ、来い!」
「何を……!」
水の龍の目の前に、突然高い壁が現れる。ジスターは龍を制し、その壁が何かを探ろうとした。
しかし探る時間は短く、すぐに壁は形を変えていく。地面から盛り上がった壁は、黒い気配をまとって巨大な人型へと変化する。まるで巨大ロボットのようだ。
「……!」
ジスターは龍を退かせ、形を刻々と変えていく壁を見上げる。そこに見え隠れする黒い気配に、彼だけでなく春直と克臣も気付いていた。
「何あれ!?」
「土の巨人か……」
「でも、何か変です。怖い……」
ぶるっと身を震わせた春直の肩を抱き、克臣は奥歯を噛み締める。あまりにも大きな、土の巨人は、五メートル以上の高さを持つようだ。
「――さあ、し合おう。この鉄壁の巨人をその水の龍が倒せるかな?」
「ただの土の塊じゃないらしいな。気配が、お前の持つ土属性の魔力とは違う。……いや、違うというよりも、何か別のものが混ざっている」
「気付いたか、流石だな!」
本気で驚いた、と言う顔でデニアは嗤う。その笑顔が徐々に歪んでいることに気付き、ジスターは冷汗が背中を伝う感覚を覚えた。
「……荒魂か」
ジスターの言葉に、デニアは頷く。最早、隠す気はないらしい。
「荒魂様は、我らに大きな力をお貸し下さった。彼の人の願いを叶えれば、俺たちの願いも叶えられる」
「願い、な」
それ以上言葉を交わしても、平行線だ。むしろ、交わることはないと思われた。
ジスターは対話を切り、水の龍に指示して土の巨人を倒しにかかる。
水の龍は気迫を雄叫びに変え、高めた魔力を水流に乗せて巨人に向かって叩きつけるように吐き出す。ゴオッという音と共に水が渦を巻きながら土の壁のような巨体を崩しにかかる。
ジスターの瞳の色が濃くなり、魔力を最大限に引き出して戦っていることが見て取れた。水と土では圧倒的な優位を持つかに思えたが、デニアの力は思いの外強く硬い。
(荒魂の力も加わって、このままだと一進一退かもしれないな)
ジスターの目の前では、水の龍と土の巨人が組み合って動かない。互いに相手を倒そうとしているため、膠着状態に陥っていた。
「ジスターさん!」
「――っ。春直、克臣さん。あの巨体はオレが止めます。その間に、デニアを!」
「わかった」
克臣は頷き、大剣を構える。春直も操血術を展開し、デニアに向かっていつでも力を使えるように準備した。
「春直、怪我までは許す」
「わかってます。戦闘不能にまで追い込みましょう」
「決して殺すな。俺たちは、不殺を信条とする自警団だ」
克臣の言葉に、春直は頷いたかと思えば早速駆け出す。操血術で巨大化した爪を広げ、デニアの横腹を狙って腕を振り上げる。
「やあっ!」
「クッ」
デニアは間一髪のところで躱すが、完璧に躱すことは出来ない。左の横腹の皮膚が浅く裂け、血が噴き出す。血が出ている個所を手で押さえ、デニアは鋭い視線を春直に向けた。
「子どもだと手加減していては、痛い目を見るようだね」
「ぼくは、ぼくたちはお前たちを必ず止める!」
春直は操血術によって創られた赤い鎖を手にし、デニアに向かって跳ぶ。そして鎖を叩き付け、デニアがひるんだ隙に克臣が飛び蹴りを見舞った。
「――かはっ」
「うちの子たちに手を出すなよ」
鳩尾を押さえ座り込むデニアの前に立ち、克臣は冷え冷えとした声でそう言った。
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