第126話 聞き込み
リンや晶穂たちと別れ、克臣はユーギと唯文と共にリューフラの住宅地を歩いていた。繁華街は先の二組が探索しているはずだ。克臣は地元の人々が住む場所を聞き込みの現場に選んだ。
「……とは思ってみたものの、人いねえな」
「始めっからこけてるじゃないですか!」
ユーギのスピード感あふれるツッコミを受け、克臣は眉間にしわを寄せた。一番怪しいのは砂漠だが、何の用意もなく飛び込んでいく場所でもない。あれだけ目を引く容貌をしているジェイスのことだ。若い女性の話に種にでもなっていないかと期待したのだが。
時刻は昼前。学校はまだ休みである所もある。女学生を掴まえるのは難しいかもしれない。そんなことを思いながらぶらぶらと歩く。
話題は自然と、これまであまり絡むことのなかった唯文のことになる。
「そういや唯文は、何でついて来ようと思ってくれたんだ?」
「え?」
「いや、これまで俺らと絡むことなんてあんまりなかっただろ?」
くるりと後ろに向き直って尋ねる克臣に対し、唯文は目を泳がせた。
「そういえば……。リューフラにつながる話を聞けたのは
ユーギが無邪気な瞳で唯文を見上げた。
「学校帰りの
「……それは、嬉しかったからいい」
ぼそりと呟く唯文は、うっすら頬を染めている。
数羽の小鳥が空を飛んで行った。
唯文が自ら話し出すのを待っていた克臣たちの隣を歩きながら、少年はぽつりぽつりと話し出した。
「……羨ましかったんです、おれ」
まだ風は暑さを含んでいる。少し汗ばんできたため、三人は近くで見つけた公園のベンチに座った。
空を見上げ、唯文はユーギたちがリンと共に大陸中を走り回る姿を見続ける中で、羨望が心の中で膨らんでいったのだと明かした。
「おれ、いっつも留守番組で。サラさんやエルハさんもそうだけど、あの人たちは出来ることがあって、でも自分にはなくて。唯一、剣術だけは父さんに習ってきたけどそれを披露することもなかった。だから、今回はチャンスだと思ったんです」
唯文は照れ隠しで横を向きながらそう言い切った。
「そっか。まあ、頑張ってみろ」
克臣はぽんぽんと彼の頭をたたいてやり、それをエールに代えた。ユーギも、
「唯文兄、頼りにしてるからね」
自分に戦闘能力がないと公言する彼は、自分より大きな唯文の腰に抱きついた。軽く目を見張った唯文は、ふと表情を和らげ、ユーギの頭を撫でた。「ありがとう」と呟いて。
「……ん?」
二人の様子を見守っていた克臣は、数人の話し声が近付いて来るのに気が付いた。高く響く、若い女性の声だ。その言葉の端々に、気になる単語が浮遊している。
「ね、あの人、すっごいかっこよくなかった?」
「でもなんか危ない感じしたよぉ?」
「全身ずぶ濡れで怪我してたし。昨日の通り雨にあたったのかな」
「二人は、ちょっと待っててくれ」
そう言い残し、克臣は女性たちに近付いて行く。そのまま声をかけて、ナンパや誘拐と間違えられて叫ばれても敵わない。克臣は鞄に入れていた地図を取り出した。
「すみません」
「はい?」
女性たちは大学生か。三人いたうちの茶髪をポニーテールにした猫人の女の子が、克臣の呼びかけに反応した。
「今旅行に来ていて、ここに行きたいんだ。どっちかな?」
「ああ、そこなら。今ここなんで……」
地図を指差しながら道を辿っていく。目的地に設定した道の駅までの道順が分かり、克臣は彼女にお礼を言った。
「助かったよ。甥っ子たちと来たんだけど、道に迷っちゃって」
「ああ、この辺りは住宅地ですから。向こうの商店街を通るのも手ですよ」
「なるほど……。そう言えばさっき聞こえてきたんだけど、誰かいい人を見つけたのかな?」
確信をつく質問だ。軽く目を細めた克臣の様子には気付かず、猫人の少女の隣にいた人間の女の子が身を乗り出す。
「さっきの話、聞こえちゃいました? そうなんです。一時間くらい前かな。学校の帰りにみんなで寄り道してて」
「うん。そしたら建物の影に座り込んでる男の人がいて」
「『どうしたんですか』って聞いたら顔上げて、それがむっちゃかっこよくて!」
最後の一人であるもう一人の猫人の少女も話に入ってくる。
「疲れてるみたいだったから、一緒に休みませんかって言ったんですけど、『わたしは、急ぐから』ってすぐに走って行っちゃったんです」
「……そいつ、何処に行ったか知らないかな?」
自分が道の駅を探す観光客のふりをしていたことを忘れ、克臣は静かに尋ねた。軽く戸惑いを顔に浮かべながらも、少女達は彼が向かった方角を教えてくれた。
「え、っと。……砂漠の方、だったよね」
「うん。でも、ただ方角だけですから」
「それでもいいよ。ありがとう」
ふわりと微笑み、克臣はユーギたちが待つ場所に駆け足で戻った。そのまま何処かへ歩いて行く三人を見送り、女子大生三人は顔を見合わせた。
「……あの人たち、探してたのかな、あの人のこと」
「わかんないけど……。もしかして、警察とか?」
「まっさかあ」
「だよね、帰ろ~」
「あ、わたしクレープ食べに行きたい。近くにできたんだよ」
そんな他愛もない会話をしながら、彼女らは克臣たちとは反対の方向に歩き出した。
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