第566話 ゴーレム戦
「やあぁぁぁっ!」
「――カエリ、うチッ」
「なっ」
リンの剣を右腕で受け止めたゴーレムはそれをブンッと振ってリンを壁に叩き付ける。更に続いた晶穂の矛を掴み、こちらも投げ飛ばした。
「ぐっ」
「うっ」
壁に背中を強打し、二人はずるずると床に座り込む。しかしそれで追撃がないはずもなく、ゴーレムは両腕を伸ばしてその先を二人に向けた。手の部分に穴が空き、銃口が現れる。
何処からか銃弾が装填された音が聞こえ、カチリというトリガーを引く音が聞こえた気がした。
「――っ!」
ほぼ反射的に動いたリンが伸ばし野球のバットのように振った剣の刃の腹が、確かに二つの銃弾を捉えた。リンはそのまま剣を振り抜き、銃弾がゴーレムに返って行く。
「ギギッ」
まさか打ち返されるとは思っていなかったのか、ゴーレムは銃口を仕舞う暇も与えられずに動きを止めた。リンの打ち返した銃弾は、それらが発射された銃口へと一直線に飛び込む。
「ギッ!?」
ゴーレムが驚きの声を上げ、次いで両腕が小爆発を起こした。打ち戻された銃弾が銃口の中で爆発し、腕本体を壊してしまう。
「よしっ」
「リン、まだだよ!」
ゴーレムにとっての一つの攻撃手段を失わせ、リンは思わず拳を握る。しかし晶穂の声を受け、すぐさま体勢を立て直した。
両腕を失ったゴーレムだが、数秒動きを止めた。しかしすぐに白い目を光らせると、床を踏み抜く勢いで蹴り飛ばす。
「ちぃっ!」
ガキンッと衝突音が響く。
速攻で突進して来たゴーレムの頭を剣の腹で受け止めたリンは、ずるずると少しずつ後退していく。それでも、晶穂まで届かせるわけにはいかないと歯を食い縛る。
そんなリンの背中を見詰める晶穂は、震えそうな手に力を入れて矛を握り締めた。そして、神子の力を呼び覚ます。
「……っ、助ける!」
晶穂の体が白く輝き、光はリンの剣へと届く。
ゴーレムの力に圧されていたリンは、剣が軽くなるのを実感した。後ろを見る余裕などないが、晶穂の力だという確信はある。
「助かる、晶穂」
「うん!」
「はっ」
気合と共に剣で薙ぎ払うと、ゴーレムがバランスを崩して転倒した。バタバタと足を動かしているが、両腕を失ったことで容易には起き上がれないらしい。
(チャンス!)
そう思ったのは同時だった。
アイコンタクトでタイミングを測り、同時に魔力を解放する。晶穂の力がリンの魔力を跳ね上げ、光の斬撃がゴーレムを襲う。
「ギギッ!?」
跳ねるように飛び起きようとしていたゴーレムは、真上から落ちて来た斬撃に驚く。回避しようと転がるが、それよりも速くリンの斬撃が届いた。
パンッと光が弾け、ゴーレムの体が飛ぶ。勢い良く窓枠にぶつかり、そのままガラスを砕いた。
ここは一階だが、目の前は崖だ。その向こうには海が広がっている。
(ここから落ちたとして、生身の人間ならまず助からないな。だが、相手はゴーレム。……戻って来ないうちに、みんなと合流しないと)
晶穂をその場に留まらせ、リンは窓枠に手をかけて外を覗き込む。すると海風が頬を撫で、ゴーレムの姿は見えない。
リンは軽く息をつくと、晶穂のもとへ戻って彼女の手を取った。
「行くぞ、晶穂」
「う、うんっ」
カッと顔を赤くした晶穂を直視せず、リンは手を繋いだままで部屋を走り出る。そして同時に魔力の爆発を感じ、そちらの方向へ向かって駆け出した。
リンと晶穂がゴーレムと邂逅したのと同じ頃、ジェイスと春直、そしてユーギが見覚えのない部屋で立ち竦んでいた。
目を瞬かせ、ユーギが首を捻る。
「あれ? 団長は?」
「団長だけじゃないよ。晶穂さんも克臣さんも、みんないない!」
「……どうやら、わたしたちだけがどこか別の部屋に飛ばされたみたいだね」
ふむ、とジェイスは一人冷静に考え込んだ。
部屋の間取りや置いてある家具からして、館から別の場所に転移させられたとは考えにくい。ならば、リンや克臣たちも同様に近くにいるはずだ。
「まずはこの部屋を出て、リンたちを探そう。守護が何処にいるかもわからない状況で、みんなバラバラになるのは不味い」
「ですね。あ、あの扉から出ま……え?」
春直が指差したのは、部屋の出入り口となる扉。しかしその前に、何やら人型のモノが落ちている。
目が点になった春直に代わり、ユーギがその正体を暴こうと近付いて行く。それを何の気なしに眺めていたジェイスは、ふと魔力の気配が濃くなるのを感じた。見れば、人型のモノから魔力が溢れているではないか。
「――っ。ユーギ、伏せろ!」
「はいっ」
突然怒鳴られ、ユーギは反射的にその場にうずくまるようにして伏せた。彼の頭上をジェイスの矢が飛んで行き、落ちているそれに突き刺さる。
「――キかぬ」
籠められた魔力の量の少ない矢は、落ちているものにあたって落ちた。カンッという固い音がして、矢が滑るように地面に突き刺さる。
まさか弾かれるとは思っていなかったジェイスは、思わぬことになって目を見張った。
「なっ」
「び、びっくりした……。何、これ?」
ほっと胸を撫で下ろしたユーギが立ち上がると、その動きにつられたかのように扉の前のそれも立ち上がった。身長百七十センチ程の大きさのゴーレムだ。
「何ですか、あれは……?」
思わず息を呑む春直の肩に手を置き、ジェイスは険しい表情で「ゴーレムだ」と呟く。その言葉を聞き、春直とユーギが声を揃えた。
「「ゴーレム?」」
「ああ。古代、人々によって造られたとされる人形のことだ。ゲームや物語の中には、時折敵役として出て来ることがあるだろう?」
「表情がなくて、物理的な強さがあるっていうことも知っています。ぼくは、アラストの図書館でそういう物語を読みましたが、実際にあるとは」
「つまり、今回はゴーレムが守護ってこと?」
「そういうことだね。……さあ、戦闘体勢だ」
ジェイスの号令を受け、春直とユーギはそれぞれに戦う支度を済ませる。三人の支度を待っていたかのように、ゴーレムは床を蹴った。
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