そもそも特別なものじゃない

「勿論知っていた」

「なっ……!」


 シャルシャーンのその言葉に、オルフェは絶句する。よくもそんな簡単に言えたものだ。

 そんな言葉が口をついて出そうになるが、そこでオルフェはグッと耐える。

 何かしらの納得できる理由があるかもしれない。そう理性がささやくからだ。


「ボクは計測不能なほどに分裂したボクたちによって、この世界を隅から隅まで監視し続けている。しかし、それはあらゆる事態に完璧に対処可能というわけではない」

「それは……」

「勿論、大抵のことは対処可能だ。限度を超える危険な転生者も即座に処分している」

「あの次元城とアサトはどうなのよ」

「それだ。あの次元城はボクが壊したものを何世代もかけてドワーフの代々の王が修復したものなんだ」

「……は?」


 ドワーフの王が転生者の子孫であることはオルフェも知ったばかりだが……そんなに昔から「そう」だったというのだろうか? シャルシャーンの言っていることは、そうとしか聞こえない。


「それだけ厄介なんだ、ゼルベクト……『破壊神』という仕組みはね。本人を破壊しても、その残滓が世界の中と外に残り端末たる転生者を送り込む。そしてそれらは、世界の防衛システムを理解し対処されないような方法を作り上げていく……今回で言えば、ドワーフの王族に入り込むような形で、だ」


 タチの悪いウイルスのごとき動きだ。世界の免疫を破壊するために少しずつ、様々な形で浸透していく。そして世界がその切除を躊躇うくらいに大きなモノになるのだ。


「それでもアンタなら出来たでしょ?」

「ああ、実際ドワーフの王族はボクがこっそり数十人は殺してる。でも、それでは止まらないし変わらない。ドワーフを皆殺しにするわけにもいかないしね。そんなことをすればどうなるか分かったものじゃない」

「神様も知ってるんでしょ!? その転生自体を」

「止められないよ」


 それもまたシャルシャーンは否定する。そういうものではないからだ。


「転生とは、そもそも特別なものじゃない。無数の世界の間で複雑に絡み合いながら存在する、巨大な仕組みだ。誰もが何処かからの転生者だ……ゼルベクトの転生者は、その流れと仕組みを歪めている。作るよりも直すよりも、壊す方が楽とはよくいったものだね」

「……それでも、次元城を壊すくらいは出来たはずよ」

「そうしたいのは山々だったけどね」


 言いながら、シャルシャーンは腕の中のキコリに視線を落とす。起きる気配は一切ない……そんなキコリを、シャルシャーンは感情のない瞳で見ていた。


「彼の中に入っているゼルベクトの力の残滓がここのところ暴れ回っていてね。エルフの国に出た厄介な奴も殺さないといけなかったし……本当に困ったものだよ。ドンドリウスなら上手くサポートしてくれると思ったんだが、彼も変なことになってたみたいだしね」

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