貴様が悪い

 電撃を纏った斧を階段下の全身鎧へ投げつけると、斧自体はミョルニルで強化してなお弾かれてしまう。

 だが、ミョルニルの電撃は全身鎧へと流れ……しかしそれも、鎧の表面を滑っていく。


(いつかの鎧剣士とも違う……もっと高性能な鎧!)


 キコリは戻ってきた斧を投げ捨てると、階段を登ってくる鎧目掛けて手を振り上げる。


「グングニル!」


 ズドン、と。階段ごと余波で吹っ飛ばす魔力の槍が炸裂し、全身鎧が吹っ飛んで。

 しかし、それでも階段の下に落ちた鎧には何の損傷もない。


「うえー……何アイツ」

「分からん。だが……普通じゃない」


 あの鎧の剣士の同種に思えるが……鎧のデザイン自体は、あの獣人の冒険者が着ていたものだ。

 獣人の冒険者が襲撃してきたという可能性もわずかながら残ってはいる。

 いるが……キコリはそうではないと何となく気付いていた。


「オルフェ。リビングアーマーが人間を中に入れる可能性……あると思うか?」

「はあ? 何のためよ」

「分からないけど。でもたぶんアレ……人間じゃないぞ」


 聞こえない。

 吹っ飛ばされた時の呻き声も、ミョルニルに対する何らかの反応も。

 嘲りも僅かな吐息も、何もかも聞こえないのだ。

 そんな生命体が……いるはずがない。


「何なんだ、お前等……なんでそこまで俺にこだわるんだ」


 階段が壊れ、もう此処には登ってこられない。

 それでも全身鎧たちは何処かに行く様子はない。

 3人の全身鎧は、キコリたちを見上げて。


「「「貴様が悪い」」」


 全く同じ声で、全く同時にそう答える。


「俺が? 何を言ってるんだ?」

「知っているぞ」

「俺の邪魔をしに来たんだろう」

「だがそれ自体をどうこういうつもりはない」


 邪魔。それがどういう意味かは想像できる。

 キコリが此処にいる目的は、1つしかないのだから。


「ロックゴーレムの主人か、お前。やっぱり出所は同じだったんだな」

「その通りだ」

「そしてお前は俺の遊びに乗ってきた、予想外の駒だ」

「ならば俺は当然それをルールに則り排除する」


 遊び。ルール。よく分からないが……この「何者か」が何らかのルールを決めて、それに従って遊んでいることだけは理解できる。


「ルールって……何だ?」

「相手の侵攻に、相応しい襲撃を」

「つまらんゲームだ」

「冒険者を名乗る割に、誰も冒険しない」

「「「それでも、暇つぶしにはなる」」」


 それは、つまり。

 キコリの介入によって、それに相応しい反撃をしてきたということになる。

 ならば……今日、キコリがやったことは。それに相応しい「襲撃」とは。


「それが、この襲撃……俺を確実に殺せそうな戦力ってわけ、か?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る