あの時、なんで俺を

「違う」


 キコリの言葉に全身鎧は、そう答える。特に感情も籠らず、ただ淡々と事実を並べるかのように。


「お前如き、殺すのは簡単だ」

「言っただろう」

「相手の侵攻に、相応しい襲撃を」


 だから此処に3人いるのではないか。

 考えて……キコリはふと、違和感に気付く。

 侵攻に相応しい襲撃。

 キコリが今日やったことは……何だった?

 気付き、ゾクリとする。


「まさか」


 ドゴン、と。何処かで凄まじい音が響く。何かが吹き飛ぶような凄まじい音。まさか、それは。

 キコリがやったことは「生きている町」を吹き飛ばしたこと。

 それなら、まさか。


「今日は楽しかった」

「貴様も楽しんでくれ」

「このゲームを楽しもう」

「何がゲームだ……!」


 叫んで、キコリはもう1つの違和感に気付く。

 先程からオルフェが妙に静かで。

 振り返ると、オルフェが真っ青な顔で震えているのが見えた。


「オルフェ……?」

「キ、キコリ……おかしいわよアレ」

「おかしいって、いやそりゃ」

「何かとんでもない気配がするの! あの時のヴォルカニオンみたいな、とんでもない気配! さっきまでそんなの感じなかったのに! 喋り出したら急に!」

「!?」


 ヴォルカニオン。爆炎のヴォルカニオン。キコリがドラゴンになる前に会った、炎のドラゴン。

 それ程の気配が「喋り出した途端」にするというのは、どういうことなのか?

 妖精は鎧が人間臭いと言う程度には「そういうもの」に敏感だ。

 先程までは普通だったから、本当に突然なのだろうが……。

 それならば、まさかアレを作ったのは。


「……ドラゴン、なのか?」

「そういう貴様はヴォルカニオンの縁者か。同族とは思えぬ弱々しい気配……合点がいった」

「……!」


 何を言っているかは分からない。だが、確定した。確定してしまった。

 恐らくあらゆる可能性のうちから、最悪に限りなく近いモノ。

 ロックゴーレムの原因は……作成者は、ドラゴンだ。

 そしてそのドラゴンが今、何らかの手段をもって防衛都市を攻撃している。

 先程から響く破壊音と怒号、悲鳴。

 本体ではないだろう。あくまでゲームを気取るなら、それはないはずだ。

 

「ゲーム……ゲーム、か」

「そうだ」

「で、お前はドラゴンで。俺にドラゴンの気配を感じた」

「そうだ」

「こちらの攻撃に合わせた攻撃を、お前は返す」

「そうだ」

「そうか」


 それならば。1つ。たった1つだけ、そのルールに反したことがある。

 そしてそれは恐らく、ドラゴンがドラゴンであるが故。

 一連の「ゲーム」を行っているドラゴンの、たった1つのミス。


「ならお前……あの時、なんで俺を殺しに来た?」

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