ルール違反だよな

「何……?」

「殺しに来たよな、俺を。まだ襲われて返り討ちにしただけの、俺をだ」


 そう、そうだ。目の前のコレの裏にいるドラゴンはあの日、キコリを殺しに来た。

 そして、その後も狙ってきた。

 結局キコリが返り討ちにしたが……アレはドラゴンの言うルールに当てはまってはいない。

 ならば……アレは。


「いや、待て。アレは」

「ルール違反だよな。それとも……お前を殺しに行く権利、2回分か?」

「……」


 全身鎧たちは、黙り込む。何を考えているかは分からない。

 まさか本当に「殺しに行く権利2回分」を認める気ではないだろう。

 というか、コレは。


(ヴォルカニオンと同等かもしれない奴なんか殺せないぞ。なんとか此処から交渉して……)


「貴様、名前は何という」

「は? キコリだ」

「そうか。キコリ、俺のルール違反を詫びよう」

「あ、ああ」


 アッサリ自分の非を認めて来た。だからこそ不気味だとキコリは思う。

 ルールなどと言っても、所詮ドラゴンが勝手に決めたルールだ。

 自分に課したルールとでも言うべきだろうか。そんなもの、守る理由もないだろうに。


「俺は貴様があの場所に来た時、他のドラゴンによる侵略だと思った。だからこそ、逃がさず殺しておきたかったのだ」


 侵略。ドラゴンが他のドラゴンの領域に入ることを、そう呼ぶのだろうか?

 だとすると、今後ヴォルカニオンに再び会いに行くというのも難しそうだが……。

 しかし、それもまたこのドラゴンの「ルール」というか、個人的な感覚の可能性もある。

 だからこそ、聞いてみる事にした。話し合いに形だけでも応じている今なら可能だろうと踏んでいた。


「俺はそんな意図はなかった。つまり勘違いで殺しに来た……ってことか?」

「意図があったかどうかは重要ではない」

「は?」

「貴様は俺の領域を侵した。それは万死に値する。だからこそ俺は刺客を送り、貴様はそれを撃退した。だがそれは俺と貴様の個人的な問題だ……ルールに則れば、違反である事に間違いはない」


 ドラゴン同士にそんなルールがあるかどうか、キコリは知らない。

 だが……このドラゴンは「そういうもの」として扱っていることだけは確かなようだ。

 ならもう、その方向で乗り切るしかない。


「そうか。で……どうするんだ?」

「破壊は此処までとしよう。さて、もう1回分は……どうするか」

「……ゲームを一時中断するっていうのはどうだ?」

「何?」

「ルールに問題が出たんだ。1度中止して見直す方がいい。そうだろう?」


 咄嗟ながら、中々良い「提案」だとキコリは思う。

 これをのんでさえくれれば、キコリは此処に留まる理由を無くすのだ。

 まあ、どう伝えたものかという問題は残るが……。

 あとはドラゴンがそれを了承さえすればいい。

 そう考えるキコリに……全身鎧は、ゆっくりと声を紡ぎ出した。

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