エゴじゃない

「そうだな……それも、いいだろう」


 よし、とキコリは心の中でガッツポーズをとる。

 それさえ約束できてしまえば、何も問題はない。

 いっそギザラム防衛伯にはドラゴンのことを伝えたって良い。

 あの人であれば、いいように処理してくれる可能性はある。

 だが……全身鎧はこう続ける。


「代わりに、貴様を殺そう」

「……は?」

「そうだ。それがいい。貴様を殺し、その屍を喰らおう。そうすれば……」


 鎧騎士たちは身を翻し、何処かへ歩いて行こうとする。


「お、おい待て! なんでそんな……!」

「相応しい装いを整えよう。いっそ町ごと喰らうもいい」

「……!」


 話が通じない。何故そんな話に飛ぶのか。

 脈絡も関連も何もかも一切が存在しない。

 いや、違う。これは、こいつは。何か……変だ。

 オルフェの態度からしてドラゴンを思わせる何かであるのは確実だ。

 だが……あまりにもヴォルカニオンと違い過ぎる。

 ヴォルカニオンを知っている。

 ドラゴンかと聞いてそうだと答えた。

 あらゆる状況が相手をドラゴンだと告げている。

 なのに、この違和感は何だというのか?


「キ、キコリ?」

「オルフェ」

「何?」

「確か、ヴォルカニオン以外のドラゴン見た事あるって話してたよな」

「したけど。クラゲみたいなドラゴン」

「どんなドラゴンだった?」

「どんなって」


 キコリの質問の意図が分からず、それでもオルフェは記憶を探る。

 確か、あのドラゴンは。


「とんでもなく強そうだった……わね」

「でも、オルフェは帰れたんだよな?」

「そりゃまあ、刺激しなかったし……でも、それがどうしたってのよ」

「なんて言えばいいんだろうな……」


 キコリ自身、言語化できるほどの何かを持っているわけではない。

 しかし、1つ言えることがある。


「凄く……頭が悪そうだった」

「は?」

「さっきのやりとりだよ。アレ、ヴォルカニオン相手で通じたと思うか?」

「え、分かんないけど」

「たぶん通じなかったと思う。ヴォルカニオンが『ゲーム』をしたなら、そこから逸脱はしないし俺の屁理屈なんか鼻で吹き飛ばすと思うんだよな」

「うーん……」


 オルフェとしては色々言いたいことはあるが、キコリの言いたいことは分かる。

 あの「ドラゴン」は何というか……不安定さが見受けられた。

 もっとも、それがドラゴンかどうかを疑う材料になる理由が分からないのだが。


「ドラゴンはエゴの塊だ」

「その言葉って」

「ドラゴンであるが故にそうなのか。そうであるが故にドラゴンなのか。ドラゴンは自分の生きたいように生きる。そういう風に出来ている。そして、それを通せるだけの『性能』を持っている」


 ヴォルカニオンがキコリに告げた言葉だ。

 あの時、オルフェは脅えている事しか出来なかったが……。


「ドラゴンは、己のエゴを通すしか出来ない生き物。でも、アレは……」


 エゴじゃない、と。

 キコリは……そう断言した。

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