こんな場所に来なかったら
「エゴじゃない……? でもアイツ、自分の言いたい事だけ言って帰っていったじゃない」
「違う。アレはただ支離滅裂なだけだ。ヴォルカニオンは、俺にこうも言った」
ドラゴン相手にドラゴンが、相手の好かぬ意見を通そうとする時。それは互いの存在をかけた争いになると心得ておけ。あの日、ヴォルカニオンはキコリにそう言ったのだ。
「アイツがドラゴンで、俺をヴォルカニオンの縁者か何かだと思ってるなら……俺の言うことなんて、聞くはずがないんだ」
そう、それが先程気付かず、しかし引っかかり続けていた最大の違和感。
ドラゴン相手に譲歩を要求するなら、必ず戦いになる。
だというのに、アレは引いた。ゲームの中断を吞んだのだ。
「いや、でもキコリは結構自分の意見を引っ込めるじゃない」
「え? そりゃまあ、人間はドラゴンじゃないしな」
「あー……そういう線引きしてんのね」
オルフェの覚えている限りだとヴォルカニオンなら交渉しようとした人間は焼くと思うのだが……キコリの生き方もある意味ではエゴだ。しかし、そこには何も言わないのがキコリには一番良い。
「ま、いいわ。アレはドラゴンじゃないとしましょう。なら、ドラゴンみたいな気配を持っていてヴォルカニオンを知っているアレは何?」
「分からん」
「へ?」
「もう其処はどうでもいいんだ」
「じゃあさっきまでの会話は何だったのよ」
「アレはドラゴンじゃない。その確信が大事なんだ」
キコリの言葉にオルフェは首を傾げてしまう。
さっきのアレがドラゴンではないとして、魔法の通じないリビングアーマーを3体も作れることも、キコリに致命傷を与える剣を作れることも何1つ変わっていないというのに。
ドラゴンではないという程度で、何が変わるというのか?
「ドラゴン相手だったら、勝てるか分からないけどさ。ドラゴンじゃないなら……なんか、死ぬほど頑張ればどうにか勝てる気しないか?」
「アンタ……」
「あー、いや。また命のかかった戦いになるのはどうかと思うけどさ?」
オルフェは言いそうになってしまった言葉を呑み込むと、仕方なさそうに肩をすくめる。
「仕方ないわね。どうせ向こうに殺害宣言されてるんだし。最大限フォローはするけど、死んだら許さないわよ」
「分かってる。なんとか勝って生き残れるように頑張るよ」
「そうしなさい」
オルフェは、言わなかった。
ドラゴン以外が相手なら勝てる気がする。
いくら弱気な風に言葉を飾っても……それは最強の生物たるドラゴンの言葉である、と。
(こんな場所に来なかったら、そんな何だか分からない奴とも戦わずに済んだのに。もう少し長く、人間らしく居られたでしょうに)
それをオルフェが言葉にする事は無い。
ないが……どうしても、そう思わざるを得なかった。
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