分かり合えるとも思えない

「……安定してるわね」


 いつも通りにキコリの状態を診ていたオルフェは、そう呟く。

 人間の事など微塵も興味のないオルフェではあるが、獣人の態度の変化とやらがキコリの状態に細かく影響していることは分かっていた。

 人間の中で生きる為に「適応」しているキコリだが、それは「我慢して生きる」という意味では決してないことはオルフェにはもう充分に分かっていた。

 ドラゴンの適応とは「快適に生きる」ことであり、それは精神面での変容も意味する。

 だからこそ、この町に来てからオルフェはそれなりに苦労してキコリの「適応」を邪魔しているのだが……確かにこの町は、少しずつ変わってきているらしい。

 キコリという「普人」……まあ、そのフリをしたドラゴンだが、ともかく普人を日常の光景として受け入れる準備が出来てきているようだ。

 そこにどういう心境の変化があったかはオルフェは一切興味がない。

 しかしまあ、結果としてキコリに良い影響があるなら、何も問題はない。

 実際今日は、オルフェが何かをやる必要は無さそうだ。


「まったく、あたしにこんな世話させて。妖精にだってそんな贅沢な奴いないわよ?」


 感謝しなさいよね、と言いながらオルフェは寝ているキコリを見下ろして。

 階下から聞こえて来た音にピクリと反応する。

 ゴトン、と。何がが落下した音がしたのだ。同時に、ドアが開く音も。


(鍵もカンヌキも閉まってた。つまり今のは……)


 カンヌキと鍵が切られた。そう想像するのは難しくない。それなら。

 オルフェは窓を開け放ち、思いっきり叫ぶ。


「ドロボ――――――――――――――!」

「うわっ!?」


 その大声にキコリも跳ね起きて、部屋の中を駆け階段を駆け上がってくる音に反応し全身に鎧を纏い斧を握る。

 ドラゴンになってから、それが一瞬で済むのは強みだが……キコリはそのままベッドから跳ぶと、階段を上がってくる全身鎧の不審者に対し躊躇いなく斧を投げつけて。

 だが、全身鎧に当然のように弾かれてしまう。怯んだ様子すらない。


「どきなさい、キコリ!」


 オルフェの叫び声に、キコリはその場を飛びのく。


「アクアストリーム!」


 放たれた水流が、全身鎧たちを押し流す。

 階段の下でゆらりと立ち上がる全身鎧たちを前に、オルフェは叫ぶ。


「殺していいのよね!?」


 キコリは一瞬だけ悩み……斧を構え直す。


「殺そう。分かり合えるとも思えない」


 油断はしない。殺さず制圧するとか人格者なことを言えるほど、自分は強くないとキコリは知っている。

 だからこそ、キコリは斧にミョルニルの電撃を纏わせた。

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