ドラゴンブレス
「ぐうううう!」
勝てない。それをグラウザードは明確に感じ取る。
能力がどうとか相性がどうとか、そういう次元ですらない。純粋に勝てない。
互いに世界から魔力を無制限に引き出せるはずなのに、普通に魔力で負けている。
それは、互いの才能の差だ。ドラゴンという最強生物であっても序列が存在する、何よりの証拠でもある。
だから、勝てない。勝てないが……ならば、トールだけは逃がさなければならない。
「トール! お前は……逃げろ! こいつは俺が何が何でも止める!」
「お、おい! グラ……」
トールを黒い球体に吸い込み、拠点へと転移させる。これでいい。これで多少なりとも時間は稼げたはずだ。あとは、シャルシャーンを。
「殺す。俺の力の全てでお前を倒すぞシャルシャーン……!」
「へえ、どうやってだい?」
「こうやってだ!」
シャルシャーンの背後に黒い球体が現れる。それは凄まじい勢いでシャルシャーンを……吸い込まない。シャルシャーンが指をパチンと鳴らすと簡単にはじけ飛んで。
続けてシャルシャーンの周囲に連続で現れる球体もシャルシャーンが指を鳴らすだけで一斉にはじけ飛んでいく。
「まだまだあああああ!」
ゴウ、と。周囲全てを吸い込むかのような吸引力を持つ巨大な球体がシャルシャーンの頭上に現れて。
「う、うわあああああ!?」
「なんだこれはああああ!」
「か、身体が浮いて……!」
『従属』の影響下にあるままのフレインの町の住人たちが吸い込まれるように宙へと浮いていく。
けれど、それでもシャルシャーンは微動だにしないまま指を鳴らす。
そして……やはりそれまでと同じように、巨大な球体もはじけ飛ぶ。
「ボクが来た理由を知ってなお、ボクを何処かに飛ばそうとする愚かさは『従属』とやらのせいなのかな? それとも君が元々愚かに過ぎたのか。まあ、どちらにせよ……効かないけどね」
「う、うう……此処に居るのもどうせ欠片のくせに、何故そんな……!」
「それが遺言かい? なら、そろそろ死ぬといい。君をこれ以上放置は出来ない」
シャルシャーンが自分の眼前に魔力を集め……巨大な球体を形成していく。
黄金の輝きを持つそれは見ているだけで死の恐怖を味わうほどの魔力濃度であり、地上では気圧されたフレインの町の住人たちがバタバタと気絶し始めている。
ドラゴンブレス。以前シャルシャーンがアイアースに放ったものよりも、更に強いもの。
それに呼応するようにグラウザードも黒く、そして無数の星の輝きを内包するような……まるで星空のようなエネルギーを凝縮し始める。
それは時空のドラゴンブレス。空間ごと削り飛ばし何処とも知れぬ場所へと捻じり削り飛ばす、凶悪なブレス。
対するシャルシャーンのブレスは……普通のドラゴンブレスだ。不可思議な特性など、何一つついてはいない。
「さよならだ、グラウザード」
「死ね! シャルシャアアアアアアアン!」
そうして、黄金のブレスと時空のブレスがぶつかり合い……黄金のブレスが、全てを消し飛ばすように飲み込んでいった。
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