魂の流れの先でまた会おう

 消し飛んだ。

 ドラゴン『裂空のグラウザード』は、一片の欠片すら残さず消し飛んだ。

 空間を引き裂く能力も削り飛ばす力も、ただ圧倒的な力の前には何の役にもたたなかった。

 何故ならば、どんな能力も結局は魔力の産物なのだ。

 ドラゴンの鱗がその強大な魔力によりあらゆる全てを弾くように。

 ドラゴンの爪がその強大な魔力によりあらゆる全てを裂くように。

 ドラゴンブレスは、一切合切を区別なく消し飛ばす。

 どんな凄まじい能力を内包した攻撃も、ドラゴンブレスの魔力を上回ることができなければ全て無効化される。

 だから、グラウザードは死んだ。シャルシャーンがドラゴンブレスに籠めた魔力量を上回ることが出来なかったからだ。


「魂の流れの先でまた会おう。その時は、君だと認識できるかは分からないけどね」


 そんな追悼の言葉を捧げると、シャルシャーンは眼下の人々を見下ろす。

 この近辺にいた「自分」の記憶は統合しているので、此処が「フレインの町」であることは知っているしキコリが此処を大切にしていたことも知っている。

 そして、もう1つ……懸念点も。


「お、おお……ドラゴンが、死んだ?」

「アレもドラゴン……」

「どうしたらいいんだ。俺たちも殺される?」

「だが、魔王への忠誠を示さなければ……!」


 一部のモンスターが放ってくる魔法はシャルシャーンには何の被害ももたらすものではないが、その様子を見下ろしてシャルシャーンは「うーん」と唸ってしまう。


「キコリの知り合いは……あ、いた。あのオークだな。あとは……よし」


 シャルシャーンは抑えていた威圧を一気に解き放つ。キコリのように咆哮することで気絶させる手段もあるが、此処にはゴーストもいる。下手をするとシャルシャーンの咆哮でゴーストは消え他にも死者が出かねない。

 だから、ドラゴンとしては基本的な威圧を解き放って。その瞬間にバタバタとフレインの町の住人たちは倒れゴーストも気絶したまま浮遊する。


「これでよし……っと。さてさて?」


 地上に降りたシャルシャーンは、全く迷いのない動きでキコリの家へと歩いていく。

 ドアの破壊されたキコリの家はボロボロで、その中にシャルシャーンの探していたものはあった。

 それは……大きな氷柱の中に閉じ込められたオルフェの姿だった。

 地下深くまで根を張った魔力氷は別名「封印の氷」とも呼ばれており、アイアースが使ったコレはシャルシャーンでも相当に手間をかけないと解くことは出来ないし、今は解くつもりもない。


「これなら、あの魔王とかいうのがきても平気だろうね。そういう気遣い出来る奴だったんだなあ、アイツ。ただのクソバカかと思ってたけど」


 それとも、あるいはキコリの影響なのだろうか?

 それ自体は良いことなのだが……何処かの世界に消えたキコリとアイアースを取り戻すのはシャルシャーンには出来ない……というよりも禁忌だ。

 シャルシャーンのような者が異世界に行けば世界侵攻の意思と取られても仕方がないからだ。どんな言い訳も通用しないだろう。


「だから、自力で戻ってきてもらうしかないんだが……さて、いつ戻ってくるのか」


 言いながら、シャルシャーンはオルフェの封じられた氷柱に視線を向ける。


「……まあ、後で嫌われないようにやるべきことはやっておくとしようか」

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