ドラゴンエッグ

 ゆらりと、黒い穴が空間を引き裂くように開く。

 光さえ通さないその穴から出てきたのはキコリとアイアースの2人。

 戻ってきた。そんな感覚を味わうより前に、2人は目の前の光景に絶句する。


「な、なんだこれ……?」


 それは、金色に輝くドームのようなものだった。

 フレインの町があると思われる場所に存在する半球状のそれは、触れると弾かれるような感覚があった。

 此処から先には進ませない。そんな意思を感じるもので……いつだったかオルフェが見せてくれたバリアのことをキコリは思い出す。

 だが……あの時のものとは比べ物にならない。こんなものを作ったのは誰なのか?

 考えて、キコリは1人の人物を思い浮かべる。


「まさかこれ……シャルシャーンか?」

「だな。この癇に障る魔力はシャルシャーンだ」


 言いながら、アイアースは黄金のバリアを蹴る。勿論ビクともしないが、そうなると此処にシャルシャーンが来たということになる。

 だが、そうなるとこのバリアは一体どういう意図で張ったのだろうか?


「従属の効果が解けて守るために……とかじゃないよな」

「守るためってのは合ってるだろうな。こいつは『ドラゴンエッグ』だ」

「え? 卵? シャルシャーンって卵を産むタイプのドラゴンなのか?」


 驚きにキコリが思わずそんな声をあげれば、アイアースはバカを見る顔でキコリを見る。


「んなわけねえだろ……魔法の話してんだよ分かれよ……」

「あー、いや。まあ、そうだよな」

「なんで俺様がこのタイミングでアイツのガキの話とかすると思うんだよアホがよ……」

「悪かったって。で、そのドラゴンエッグっていうのはバリアなんだな?」

「まあ、そういう感じだな。俺様たちが『大切なもの』か『閉じ込めておかなきゃならないもの』を封じるときに使うもんだ。お前も覚えとけ、いつか役に立つかもしれねえしな」


 ドラゴンエッグ。ドラゴンの卵ということだが、それはさながら卵のように大切……という意味でそう名付けられている。最初の使用者はシャルシャーンだが、他のドラゴンは使う者、使わない者と分かれている。

 ドラゴンならではの強大な魔力で対象を封印しつつ守るものであり、基本的にはかけたドラゴンが解除するか滅びるかするまでは維持される魔法でもある。

 そんなものを此処にかけているということは、守られているのはフレインの町で間違いない。

 しかし逆に言えば、シャルシャーンが此処に来たが「従属」は解けていないということでもある。


「まあ、アイツはグラウザードの馬鹿を殺しに来たんだろうしなあ。魔王は逃げたかグラウザードが逃がしたか……そんなところか」

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