その辺が理由だと思うわよ
しかし、オルフェは「んー……」とあまり芳しい反応ではない。
「まあ、あり得るっていえばあり得るんだけど」
「何かあるのか?」
「何かっていうか。魔法ってそこまで万能じゃないのよね」
一見すると確かに魔法は何でもできるように見える。天地を操り法則を捻じ曲げ、怪我も病も消すことができる。しかし、魔法にも出来ないことは当然のようにある。それは死者の復活、そして時を巻き戻すことだ。それらは神の領域であり、言ってみれば魔法を超えた「権能」の世界だ。
「アサトが元の世界に帰る魔法を作ってないのも、その辺が理由だと思うわよ」
そう、エアーマインのような器用な魔法を作る奴がそうしていないのは「出来ない」からだろうとオルフェは思う。世界間移動というのは、それだけ複雑なものということだ。ドラゴンとしての力や、キコリの場合は破壊神の力だが……そのレベルで可能になるものなのだ。だからまあ……アサトが願うの叶う石を探しに来たというのは、その自身の公言している目的からすれば理解できることではあるのだ。
「とすると、あとは石の確保だけどな。たぶんあのあからさまな城にはない。そういうことだろ?」
「たぶんね。もしあるんなら、もう見つけてるでしょうし」
願いを叶える石。この古代都市に来て誰もが探す場所が、城の宝物庫だろう。もしアサトが願いを叶えて元の世界に帰ったというのであればそれでいいが、今のところは、そんな膨大な魔力が動いた形跡をレルヴァもオルフェも感じていない。ならば、アサトはまだ願いを叶える石を見つけていないのだ。
「どういうことなんだろうな。此処は都市で、アレは古代王国の城だ。なら、願いを叶える石みたいな宝が城にないっていうのは」
「さあね。試しにこの家の中でも見てみたら分かるんじゃない?」
言われて、キコリは近くの家の扉を開けようとして……何の抵抗もなく開いたことも「おっ」と思わず声をあげてしまう。
「開いたぞ」
「そうね」
「俺はてっきりまた、この扉を壊すことになるのかと」
「苦労に慣れてんじゃないわよ。ほら、さっさと中はいるわよ」
オルフェに背中を押されながらキコリが入れば、そこは普通の家……ではなかった。
簡素なベッドと、壁に固定された机。そしてトイレらしきものが設置された部屋が1つ。
非常に簡素だ。というか、簡素すぎる。しかし「生きている町」のような不自然さはない。
「これ、ベッドも固定されてるわよ。随分とこだわり屋な奴が住んでたのかしらね」
「……違うと思う」
「どういう意味よ」
「他の家も幾つか回ってみよう。そうしたら分かると思う」
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