勿論例外はありますけどね

「で、キコリ。何か買いに来たんですか?」

「え。分かってるならさっきの一連の流れは一体」

「ちょっと見せつけてみたくて」

「俺はそれにどう返せばいいんですか……?」

「そっと抱きしめてくれればいいと思いますよ?」


 さあ、と両手を広げるアリアにキコリは「勝てない……」と頭を抱えてしまう。

 何を言っても何をやっても敗北するビジョンしか見えてこない。

 なので、仕方なく話の方向性を元に戻そうとしてみる。


「ええっと……まあ、お察しの通り買いに来たんです」

「もう、照れ屋ですねえ。そういうところも気に入ってますけど」

「あの、ほんとそのくらいで……クーンがそっと帰ろうとしてますので……」

「あ、いいんだよ。また明日ね、キコリ」

「いいから待て。帰るんじゃない」


 戻ってくるクーンだが、完全に傍観モードになっている。

 そんなクーンを見て頷きながら、アリアは笑う。


「じゃ、そろそろお仕事の話にしましょうか。今日は何を探しに?」

「武器を買おうかなって思ってます」

「武器?」


 アリアはキコリの背中の斧に視線を向け、首を傾げる。


「まだまだ使えそうですけど」

「ゴブリンの異常進化体に遭遇しました。この斧は全然通じなくて、魔法使って何とか勝ったんですが、それで逆に面倒なことになって」

「あ、それで上で騒いでたんですね。おめでとうございます、キコリ。あとクーンさんも」


 そう言うと、アリアは「うーん」と声をあげる。


「魔法ってのはアレですよね。キコリがこの前話してた『ブレイク』ってやつ」

「はい。魔力が足りないせいで外傷がなくて。で、それが問題に」

「あー、なるほど? しかしそうなると、ちょっと面倒なお話になりますね」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ。素材の差っていうのはつまり頑丈さとか使いやすさの差であって攻撃力の差じゃないですから」


 勿論例外はありますけどね、とアリアは付け加える。


「たとえば鋼鉄の斧に替えたところで、キコリの攻撃力が劇的に上がるわけではないんです。値段は上がりますけどね」

「うーん……つまり武器を替える事に意味はない、と?」

「いえ。素材は攻撃力にあまり影響しませんが、そこに付け加えるものがあればその限りではないです」


 そう言うと、アリアはスペースの奥に大事そうに飾られている剣を持ってくる。


「たとえば、これですね。素材は鋼鉄なんですけど……違い、分かります?」

「ん? んんー……」


 見たところ、装飾が多めの剣だとキコリは思う。

 特に嵌った宝石が凄く高そうだ。

 しかし……どうにも見たことがあるような?


「この宝石……ですかね?」

「惜しい。魔石なんですよ、これ。魔石の力で武器の持つ能力を引き上げる。すなわち……マジックアイテムの剣なんです」

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