ちょっとカッコつける余裕もないので

「アリアさん!」

「ええ、いきますよ!」


 リザードランナーは、その硬い鱗で投げナイフ程度であれば防いでしまう。

 剣でも、下手な攻撃では弾かれるかもしれない。

 だが斧は別だ。

 キコリが全力で打ち込めば鱗は割れ、しっかりとダメージが通る。

 そして動きが止まれば、アリアの斧が確実にトドメを刺す。

 だが、向こうとてやられてばかりではない。

 キコリたちが強敵と判断したマギライダーのうちの一体が反転し、杖を構える。

 放つのは、魔法の矢……マジックアロー。

 だが、キコリはそれを恐れず真正面から立ち塞がる。

 なんとなくだが「出来る」という自信があったからだ。

 そう、キコリの新しい鎧は……バーサークメイルは。

 触れたものの魔力を限界まで吸収する。ならば、当然触れた魔力も。


「ギッ……!?」


 キコリのバーサークメイルに……正確にはその魔石に触れた瞬間、マジックアローが吸収される。

 本来は魔石でない場所に当たるはずであっただろうものも、全てだ。

 そして……あしらわれた魔石が、薄く輝く。

 これで、今のマジックアロー分の魔力が魔石に装填された。

 ならば、その魔力をキコリが使える。その方法は、もう教わっている。


「チャージ!」


 魔石からキコリへと魔力が流れ込む。

 凄まじい破壊衝動が、身体の中から湧き上がってくる感覚がある。

 壊せ、殺せと。あそこに敵がいるとキコリの中で何かが叫ぶ。

 だが……何も、問題はない。


「ミョルッ、ニルウウウウウウウ!」


 叫ぶ。バチッと。キコリ自身の魔力で発動させるよりも強力な雷がマジックアックスを覆う。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 投げる。雷纏うマジックアックスがマギライダーを……騎乗しているホブゴブリンマジシャンを砕いて、キコリの手元に戻ってくる。

 瞬間、キコリは主を失ったリザードランナーへと襲い掛かる。

 襲い、かかろうとして。


「はい、ストップ!」


 後ろから引っ張られて、その場でたたらを踏む。


「主を失ったリザードランナーを攻撃しても時間の無駄です! それに……」


 アリアの指さした先。英雄門が開き、衛兵や冒険者たちが飛び出てくる。

 いつの間にか英雄門の防衛戦も趨勢が決して、掃討戦に移っていたのだ。


「もう私たちの出番は無さそうです。いいんですよ、キコリ」


 アリアにぎゅっと背中から抱き寄せられて、キコリは自分の中の感情が静まっていくのを感じる。


「はー……」


 そして、アリアはそのままキコリに寄り掛かるようにして全身の力を抜いていく。


「もう限界です……ちょっとカッコつける余裕もないので、その。倒れますね?」

「ええ!? あ、アリアさん!?」


 ズルズルと地面に倒れていくアリアを何とか背負って、キコリは診療所へと走っていく。

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