心配は要りませんよ
診療所は防衛都市の性質上重要な施設であり、当然それなりの大きさを持つ半公共施設であった。
そして衛兵や冒険者ギルドとの関係が深い施設でもあるせいか……キコリの担いだアリアを見て「あっ」という顔をする医療員がそれなりに存在していた。
「アリアさん!?」
「倒れちゃったんですか!? こちらへ!」
「早く、担架!」
手早く担架に乗せて運ばれていくアリアを追おうとして、キコリは医療員の1人に止められる。
「ちょっと、なんで邪魔を!」
「邪魔です。医療に関しては任せてください」
「でも……! いえ、すみません。けど、そんなに酷い状況なんですか?」
アリアの近くをウロウロしてもどうにもならないのはキコリにも分かっている。
だからこそ、そう聞けば……医療員は、ふうと息を吐く。
「貴方は、彼女との関係は?」
「同居人、です」
「あら」
意外そうに医療員はキコリを見ると、上から下までキコリをじっと見つめてくる。
「えっと……?」
「確かによく見るとアリアとバトルスタイルまで似てる感じですね?」
「そんなに有名なんですか、アリアさん」
「ええ、まあ。でも、アリアさんの身体については本人に聞いた方がいいと思います」
「それは……ええ、そうですね」
確かにその通りではあるし、この様子だと命に関わるような状態ではないのもキコリには理解できた。
もし命に関わるような状態であれば、こんな雑談に興じているはずもない。
キコリがそうやって落ち着きを取り戻しているのに気付いたのだろう、医療員はフッと笑う。
「心配は要りませんよ。命に関わるような状態ではないです」
「そうですか、良かった……」
「けれど、少し安静にする必要は……あっ」
別の医療員が走ってきて、キコリを見つけて「君がキコリですか!?」と叫ぶ。
「はい。アリアさんのことですか?」
「そうです。アリアさんが君の事も呼んで来いと……」
そうして慌ただしくアリアの寝ているベッドに向かえば、アリアがヒラヒラと手を振っていた。
「此処まで運んでくれたって聞きましたよ。ありがとうございます」
「そんな事よりも、大丈夫なんですか?」
「ええ。実はですね、私が冒険者引退した理由でもあるんですが……ちょっとした魔力異常を抱えてまして。ある程度以上魔法を使うと、倒れちゃうんですよ」
「そんな身体で俺に魔法を……」
「いやですねえ。あんな事さえなければ何も問題がなかった程度です。それともなんですか。キコリは現状で私より強いとでも?」
うりうり、とつついてくるアリアにキコリは「いえ……」と答えるしかない。
答えるしかない、けれども。
「それでも、アリアさんに何かあるのは嫌です」
そう言って、アリアの手を取っていた。
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