神殿、か
それは、何の偽りもないキコリの気持ちの発露だった。
この世界に生まれてから、誰よりもキコリに暖かさをくれているのはアリアだ。
アリアが居なくなってしまうなど、考えたくもなかった。
それが自分のせいかもしれないとなれば、尚更だ。
だからこそ、キコリはアリアに真正面からそう伝えて。
「……」
アリアは無言でベッドから起き上がると、キコリを物凄い力でぎゅっと抱き寄せる。
「あ、アリアさん!? いだだだだだだ!?」
「なんかもうこれ、結婚でいいんじゃないですかね」
「え!?」
「今すぐ帰りましょうか、キコリ。神殿に予約入れませんと」
「いや、ちょ……医療員さーん! アリアさんが暴走を!」
「アリアさん、落ち着いてください! 貴女今日一日は入院ですからね!?」
「ちょっと、離しなさい! こういうのは流れがある時に流さないと駄目でしょう!」
「誰かー! アリアさんのバーサーク抜けてない! 早く鎮静の魔石!」
「君も興奮させない! ほら、向こう行って!」
「え、ええ……? 俺が悪いんですかね……?」
追い出されるようにアリアの病室を出て、キコリは息を吐く。
「でも……ちょっとドキドキしたな」
アリアと夫婦。なんとなく、それはなんとなく素敵な未来な気がしたが……キコリのそんな表情は、すぐに曇る。
思い出すのは、自分を悪魔憑きと罵った家族や村の人々の顔だ。
キコリには、前世がある。
そしてこの世界には、恐らく……いや、間違いなく、今までも何人かの「前世の記憶持ち」……転生者が存在している。
だが、彼等が自分を転生者だと明かしたなどという内容が書かれた本には、未だ出会っていない。
そして悪魔憑きなどという単語があるということは……「前世の記憶」とはもしや、それ自体は然程歓迎されていない現象なのではないだろうか?
その辺りに決着をつけずして、誰かとそういった関係に踏み出すのは不誠実が過ぎる気がしていた。
しかし……今のところ、悪魔憑きなどというものについて書かれた本はアリアの家の本棚では見つかっていない。
キコリの居た村独特の迷信と片づけるのは簡単だが、それなら神官がわざわざ「キコリは違う」などと否定するだろうか?
もし悪魔憑きとかいうのが迷信の類なら「そんなものはない」と言うのではないだろうか?
「……神殿、か」
そこに行けば、あるいは答えがあるのかもしれない。
自分の前世の記憶との付き合い方も、分かるのかもしれない。
避け続けていたそれと、向き合う時が来たのかもしれない。
「まだ時間はある……行ってみよう」
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