そんな時は前を向きなさい

 走る。走る。来た方向へ向かって、キコリは走る。

 あのリザードランナーとかいう走るトカゲに乗ったホブゴブリンが2体も出た。

 2体出たなら3体目が出ないなどと誰が言えるだろうか?

 出る。そう考えたほうがいい。

 走る。走って、走って。キコリはついに森を抜ける。

 抜けて……「は?」と声をあげる。

 英雄門が、閉まっている。

 倒れている何人かの冒険者と……リザードライダーたち。

 主を失ったリザードランナーがウロウロしていて、壁の上にいる衛兵と撃ち合いをしてるホブゴブリンもいる。

 そして。

 攻めあぐねていたリザードライダーのうちの何体かが、キコリたちを見て、ニヤリと笑う。

 キコリたちを獲物としか見ていないのだろう。

 何事か話し合う様子を見せ、緩慢な動きでキコリたちへと振り向く。


「そん、な……」

「キコリ」


 背負われていたアリアが、キコリからよろめきながらも降りる。


「アリアさん! まだ……!」

「いいえ、大丈夫です。これ以上ミョルニルは使えませんが、戦うだけなら出来ます」

「でも!」

「でも、は無しですよキコリ」

 

 アリアは荒い呼吸を整え……汗をボタボタと流したまま、斧を構える。


「戦うしかない。そんな時は前を向きなさい。困難に襲われる前に襲い掛かりなさい。足が前に出るのなら。指が1本でも動くのならば。そして、常に意識に置きなさい。どうせ死ぬとしても、挑んで死ぬ結末の方が幸福であると」

「バーサーカー……」

「そうです。それがバーサーカーの理です。簡単でしょう?」


 殺される前に殺す。

 つまりはただそれだけの、シンプルな理。

 それがバーサーカーであるということならば。


「はい! 俺は……バーサーカーです!」

「よし! やりますよキコリ!」


 キコリとアリアは、息を大きく吸い込む。

 それは、キコリがアリアに最初に習った技。

 お前を殺すという、原始の威圧。

 人間というよりも獣じみた、戦いの咆哮。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 響く。鳴り響く。

 聞く者の臓腑を揺らし脳を揺らし、原始の恐怖を呼び起こす純粋なる殺意の咆哮。

 ウォークライ。

 魔力など微塵も使わず、ただ殺意のみを籠めた2つの咆哮が、響く。

 戦場が、一瞬静寂に包まれて。

 キコリとアリアが、弾丸のように走る。

 アリアの斧が、リザードランナーの足を切り裂いて。

 落馬するホブゴブリンを、遅れて到達したキコリのマジックアックスが「薪よ割れよ」とばかりに乱打する。

 ハッとしたようにハルバードを振るい突撃してくるリザードライダーに……操られ向かってくるだけのリザードランナーに、キコリの投擲した斧が命中する。


「グゲアッ……」

「ギャギイイ!?」

 

 当然のように落馬するホブゴブリンに、アリアが襲い掛かり首を刎ねる。

 そう、この戦場は今……2人のバーサーカーに、完全に吞まれていたのだ。

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