予想外でした

「何かしら……ですか」

「はい、何かしらです」


 出来ればもう問題は解決していて報告にまだ時間がかかるだけ……というのが平和だろうな、とキコリは思う。

 何しろキコリよりもずっとベテランで、ずっと強い冒険者が調査しているのだ。

 何とかできないはずがない。

 そうキコリは、考えて。瞬間、アリアに突き飛ばされる。

 何を、と。考えた時には、森の中から飛び出してきた何かにアリアが強烈な蹴りを受け吹き飛ばされていた。

 

「アリアさん!?」


 それは、前世で見た水の上を走るトカゲの姿にも似ていただろうか。

 勿論、もっと巨大で、もっと筋肉質でもっと凶悪な何かで。


「ぐっ……リザードランナー……! まさか、そんなものを……!」


 そのリザードランナーの上に乗っているのは……ハルバードを構えたホブゴブリン。

 アリアは立ち上がりながら、ホブゴブリンとリザードランナーを睨みつける。


「ゴブリンのリザードライダー……! なるほど、状況は予想より悪いようですね」

「ギャギャギャ!」

 

 リザードライダーは笑い……ハルバードを構えて。突撃しようとしたその矢先、アリアのウォークライが響く。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「グエエ!?」


 アリアのウォークライにリザードランナーが怯み。

 瞬間、アリアは投擲の姿勢に入っていた。


「ミョルニル!」


 ズガン、と響く音。雷纏う斧が投擲され、リザードライダーの頭を砕きながら丸ごと黒焦げにする。

 そのまま斧はアリアの手に戻り……しかし、アリアは苦しそうに荒い息を吐きながらよろける。

 駆け寄っていたキコリがその身体を支えるが……大粒の汗がアリアの額に浮いていた。


「大丈夫ですか、アリアさん……!」

「す、すみませんキコリ。まさか状況がここまでとは予想外でした。もしかすると、調査隊はもう……いえ、言っている場合じゃないです。逃げましょう!」

「はい!」


 まだこれで終わりではない。

 そう言っているのだと理解したキコリはアリアに肩を貸しながら、来た方向へと戻り始める。

 だが……その時、木々の間を縫うように飛ぶ魔法の矢の群れがアリアとキコリを纏めて吹き飛ばす。


「ぐあっ……!」

「うっ……」


 倒れるアリアとキコリの前に姿を現したのは、もう1体のリザードライダー……いや、違う。

 上に乗っているホブゴブリンらしきモンスターは、杖を持っている。

 魔法騎兵。明らかにそういった類の何かにアリアが「マギライダー……」と呟く。


「ミョル、ニル!」


 アリアの本日3度目のミョルニルが余裕面のそのマギライダーをも撃ち砕き、そのままアリアはフラリと倒れる。

 汗の量もすでに尋常ではない。

 理由は分からない。分からないが……これ以上はダメだ。

 そう確信したキコリは、アリアを背負って必死で走り出す。

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