紹介所

 食事をしてドドと合流すると、キコリたちはカウンターで暇そうにしている宿の主人に声をかける。


「どうもお世話になりました」

「いえいえー! 本当にお行儀の良いお客様方で安心しました。本当に……ほんっとうにねえ……ろくでなしの多いこと、多いこと。あのゴブリン連中とかは、何度軒下に吊るしてやろうと思ったか」

「大変ですね」

「ええ、大変ですとも。で? 本日もお泊りならお荷物は預かりますし、多少お安くしますが?」


 いやあ、お気に入りのお客様を是非泊めたいですなー! と言う宿の主人にキコリは「……よろしくお願いします」と答える。

 そう答えるしかない。この状況で「泊まりません」と言えるはずもない。別に断っても良かったのだが……そこまで断る理由も今のところはない。


「ところで、此処でしばらく名前を売ってみようと思いまして。何か良い手段をご存じですか?」


 キコリが昨日の宿泊代に多少上乗せしてカウンターに置くと、店主はカラカラと笑う。


「交渉ってものをご存じですな。しかし無用。私が貴方たちを気に入ってるってのは本気でしてねえ」


 言いながら店主は上乗せ分を除け、更に割引分なのか除けてみせる。


「紹介所に行ってみるといいです。町の中央近くにありますぜ」


 親切な店主に見送られ荷物を預けて外に出ると、キコリは「うおっ」と声をあげる。

 何事かと出てきた仲間たちも思い思いの声をあげるが……そこには、逆さ吊りにされたゴブリンが3匹。一緒に吊るされた札に「ベッドシーツで服を作りしバカ」と書いてあるのが分かる。


「……そういえば吊るしてないとは言ってなかったな」

「そうね」

「そうだな」

「殺さねえんだから優しいよな」


 アイアースだけ何か違うことを言っているが、まあその通りではあるだろう。

 殺さず逆さ吊りにしているだけなのだから、大分優しいのは確かだし、それもルールの1つなのかもしれない。

 まあ、キコリたちが関わることでもないのでさっさと見なかったことにして歩いていくと、色々な種族のモンスターが歩いているのが見える。

 ウェアウルフ、オークにオーガ、ゴブリン、バードマン、ミノタウロスの姿もある。

 それだけではなく、あの狂暴な猿モンスターのホワイトアームもその目に確かな理性の光を宿し歩いている。

 そんな中を歩き辿り着いたのは、広場のような場所で。幾つかの小屋や掲示板のようなものが並んでいるのが分かる。

 広場の入り口には「紹介所」と書いてあるが……なるほど、つまり此処がそうなのだろう。

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