冗談のセンス
翌朝。キコリたちは、ドアをノックする音で目が覚めた。
ドアのカギを外して開ければ、そこには宿の店主がパンのたくさん盛られた皿と水瓶とコップの載った盆を持って立っていた。
「おはようさんです。昨日はゆっくり休めましたかい?」
「ああ、おかげさまで。ただ、窓の外をゴーストが飛んでるのは見たよ」
「アイツ等は夜が真骨頂ですからなあ。さ、ほれ。サービスの朝食です。たっぷり食って今日も頑張るといいですぜ」
如何にも焼きたての香りの漂うパンにオルフェとアイアースがムクリと起きるが、キコリは受け取ると「……店主さんが焼いたのか?」と聞いてしまい当然のように笑い飛ばされる。
「フハハハハ! 冗談のセンスがありますねえ! こいつはパン屋のオーガが焼いたもんですぜ。ちゃんとどの種族でも食えるもんだから安心です。といってもわたしゃ骨だからパンなんか食えませんがな! 肋骨の下から出ちゃう! イヒヒ!」
「は、はは……」
「それじゃ、ごゆっくり」
笑いながら去っていく店主を見送るとドアを閉め、キコリは大きく溜息をつく。朝から凄い疲れた気分だ。
「朝飯だってさ」
「おう」
「そうね」
アイアースとオルフェはそれぞれ適当にパンを掴むと、その辺りに座ったり浮いたりしながら食べ始める。
キコリも盆を床に置いて、水瓶の中身がミルクであることに気付く。
「ミルク? 牛でも飼ってるのか?」
そう言った瞬間、ドアが再びノックされて。まさかと思って開ければ店主の姿。
「いやいや、1つお伝えし忘れてましてねぇ。今朝のサービスドリンクはミルクですぜ」
「何処かに牧場が?」
「ええ、毎朝新鮮な搾りたてをミノタウロスがですな?」
ミノタウロス。牛の頭を持つ人型モンスターを思い浮かべキコリが微妙な顔になると店主がうんうん、と頷く。
「分かりますよ。私も最初に連中がそういう商売すると聞いた時にゃあ高度なギャグか、まさかお前の乳首絞るんかいと思ったもんですがな? どうにも自分たちに似た顔の生き物が他の連中にどうにかされてるのを見ると殺したくなるらしく。必要に迫られたらしいんですなあ」
ハハハ、と笑う店主がまた去っていくが、ミノタウロスといえばオークやオーガも一撃で殺すと言われる剛腕モンスターのはずだ。そんなモンスターが平和に牧場をやっているというのは……やはり、この町は特異なのだろう。
座ってパンを食べてミルクを飲めば、どちらもとても美味しい。
パンは柔らかく焼き上げられ、牛乳は濃さも味も絶妙なバランスだ。
牛乳をもう一口飲みながら、キコリは先程の店主の言葉を思い出す。
「……やけに詳しく事情知ってたけど。まさか面と向かって言ったわけじゃないよな……?」
生きてるから問題ないのかもしれないが……あの店主に聞いても「どうでしょうなあ」とか言いそうだし、ミノタウロスに聞いてみるわけにもいかない。
無駄な疑問が増えてしまったことに、キコリは……いったん全部、記憶から消去することにしたのだった。
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