妖精女王の証

「あー……」


 シャルシャーンがどうにかすると言っていたのを思い出して、なんともキコリは微妙な表情になる。

 約束は果たされたようだが、なんとも仕事が早い。


「えーと……おめでとう」

「うん、ありがと」


 いわゆるお姫様抱っこの状態からキコリはオルフェをそっと降ろすと、オルフェは自分で身体のあちこちを確かめ始める。

 巨大化自体は前から出来たが、強制的にされたとなると話は色々と変わってくる。

 だから、キコリもオルフェを心配そうに見つめる。


「大丈夫か? 元に戻れそうか?」

「たぶん大丈夫だと思うけど」


 言いながらオルフェはポンッと音をたてて元の妖精サイズに戻る。

 戻るが……キコリから見ても、オルフェの存在感のようなものが大きく変わっていることに気付いていた。


「凄いな。またドドは2人に引き離されてしまった」

「何言ってるんだよ。今回の件ではドドに助けられたんだぞ、俺たちは」


 ドドがハイオークになった戦い。あれがなければ、かなり危うかったのは間違いない。

 どれだけドドが自分を卑下しようと、確かにキコリたちは助けられているのだ。


「そ、うか。うむ、そうか」

「ああ、そうだよ。ドド、ありがとう」

「そうね。あたしも全面的に同意よ。ありがと、ドド」

「……うむ」


 ドドが照れたように頬を掻くのをそのままに、オルフェは「んー」と声をあげる。


「これ、あたしの中にも『何か』あるわね……妖精女王の証みたいなものかしら」

「ドラゴンクラウン的なものか」

「たぶんね」


 名付けるならフェアリークラウンといったところだろうか?

 代替わりする度に受け継がれるものだと仮定すると、大分ドラゴンクラウンとは性質が違うものだろうが……とオルフェは考える。

 恐らくはドラゴンクラウンほど圧倒的なものではなく、資格の証明としての役割が強いものなのだろう。

 オルフェはそう考えながら、キコリにチラリと視線を向ける。


「……ところで、キコリは小さい方が好きなの?」

「ん? え? 何の話だ?」

「あたしが元に戻れないか、やけに心配そうに言ってたから」

「え? え……え!? いや、小さいとか大きいとか……どっちもオルフェだろ?」

「じゃああたしが小さくなれるか心配する必要ないじゃない?」

「え、いや。なんで今詰められてるのか、サッパリ分からない」


 キコリがドドに視線で助けを求めると、ドドはフイッと視線を逸らす。


「ド、ドド! 俺何も間違ってないよな?」

「ドドに言えることは多くはない。しかし時として、そういうことはある」

「なんだそれ!?」

「いいから。どっちが好きか言ってみなさいよ」


 正解の分からないキコリが散々詰められたあげく「どっちも好き」と何回か言わされた辺りで解放されたが……今日一番疲れた顔をしているのを、ドドは何も言えないままに見守っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る