妖精女王

「くっ、この! って、ん?」


 起き上がったオルフェはキコリを睨みつけ……すぐに「んんー?」と不可解そうな表情をしながらキコリの眼前に飛んできて頬に触れる。

 ペタペタと頬に触れ、首を傾げて。やがて「本物ね」と呟く。


「え、いや……何の話だ?」

「シャルシャーンよ。此処に居なかった?」

「あー……」


 キコリが経緯を軽く説明すると、オルフェとドドは難しそうな……というよりは頭痛をこらえるような表情になる。


「てことは……何? そんな何処にでも現れるような奴が思い出したように迷惑かけにくる可能性があるってこと?」

「まあ、そうなる……かな?」

「最悪……」

「うむ。ドドもそれには同意だ」


 まあ、キコリも完全に同意だし、特にフォローする必要性も感じなかったので何も言わないが……なんとも不安の残る状況だとは思っていた。

 サレナの件にしろ、シャルシャーンの件にしろ……一歩間違えば世界を無茶苦茶にしかねない状況があまりにも多すぎる。

 神々は確かにこの世界に存在していて力を振るえる状況にあるのに、もっと何か根本的な対策をすべきではないか……とも思ってしまう。もっとも、どうしようもない状況になればいよいよ直接介入するのかもしれないが。


「何かまた変なこと考えてる顔してるわね」

「そうか?」

「そうよ。俺はこの先どうすべきか……みたいな顔してるわよ」

「あー、まあ。大体合ってるな」


 キコリ自身、この状況を知り……種族としてもドラゴンになった以上はそういうものに介入すべきではないかなどと考えてもいたのだが、オルフェにはお見通しのようであった。

 だからだろうか、オルフェはキコリの眼前で軽く鼻を突く。


「どうでもいいのよ、世界がどうとかそういうのは。アンタの旅の目的はそれじゃなかったでしょ?」

「そう、だな」

「他のドラゴンに会う。その上で今後どう生きるか決める。そんな感じのやつだったでしょ? なら、そこからブレてんじゃないわよ」


 確かに、その通りではある。まあ、種族的にはもう完全にドラゴンではあるが……確かに元々のキコリの旅の目的はそうだった。

 まあ、もう人間の町で静かに暮らせるとも思ってはいないが……それでも、旅は続けなければならない。そうしたら、その先に見えるものもあるだろう。

 だから、キコリはオルフェに微笑みかける。


「そうだな、その通りだ」

「ならくだらないことに頭回してんじゃないわよ。バカなんだから」

「ハハッ」


 いつも通りのオルフェに、キコリは笑う。そう、まさにオルフェの言う通りだからだ。

 だから、また先に進もうとして。


「ん、んん!?」


 キコリの眼前にいたオルフェの体内から急に光が漏れ出し……周囲の魔力がオルフェに集まり出す。それは、ほぼ数秒のことで。

 一気に人間サイズまで巨大化したオルフェを、キコリは慌てて抱き留める。


「キコリ……」

「あ、ああ。どうしたんだオルフェ」

「なんか今、妖精女王になったみたい」

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