面倒ごとはこれから

「なんか……そっか。今後何かあればシャルシャーンのせいだって思っとけばいいのか?」

「そりゃ酷い。ボクだって好きでそんなことになってるんじゃないよ」

「そう言われてもな」


 キコリのそんな言葉にシャルシャーンはハハッと苦笑する。文字通り、反論の余地がないからだ。

 どのみち、これは避けがたかった……予測されていたことでもある。


「まあ、仕方のないことなんだよ。どんなものにも限界はある。それはボクにだって存在する」

「限界?」

「シャルシャーンという『仕組み』の限界さ。ボクは他のドラゴンよりやれることが多い自負はあるが、こうして綻びも出る。それは長い時間を経て劣化に至る……いずれボク自身が世界に溶けて消え去る日も近かろうさ」

「……」

「ま、それについてはいいさ。それよりさっきの君の『破壊のドラゴンブレス』だがね……ちょっと派手過ぎて近くのドラゴンに伝わったみたいだ」


 近くのドラゴン。会ったばかりなのにそんな近くにいるのかとキコリは内心で驚くが……「あっ」と声をあげる。


「まさかアイアースのことか?」


 実物をまだ見た事のない……けれドラゴンブレスだけは見たドラゴンの名前をあげれば、シャルシャーンはフッと鼻で笑う。


「あいつは気にしなくていいよ。もう君のことはあの時に勘付いてる。というか……いやまあ、いいか。あいつのことなんか」


 同じ最強生物であるはずの「海嘯のアイアース」をそう馬鹿にするだけの実力者であることを知っているだけにキコリとしては何とも言っていいか分からないが……「そうか」とだけ頷く。


「君が更に奥に進もうというのであれば、必ず出会うはずだ」

「一応聞くけど、誰なんだ?」

「創土のドンドリウス」


 その名前を聞いて、キコリの中の記憶がよみがえる。

 知っている。キコリはその名前を知っている。

 そう、確か。ソイルレギオンが「創土のドンドリウスに従属している」と言っていたはずだ。

 そして、確かソイルレギオンは。


「思い出したぞ。なんかシャルシャーンとちょっと似たタイプの奴が仕えてたってドラゴンだ」

「え!? やめてくれよ! ソイルレギオンのことだろ!? アレ、ボクをイメージして作ってああなんだぜ! 冗談じゃない!」

「あ、やっぱりそうなのか」


 なんだか怒ってしまったシャルシャーンだが、すぐに怒りを収めてふうと息を吐く。


「いいかい、キコリ。ドンドリウスは凄く面倒な奴だ。正直、ボクも関わりたくないくらいには面倒だ。でも、きっとドンドリウスは君に接触してくるだろう」

「なんでだ?」

「そういう奴だから」

「説明になってない……」

「会えば分かるさ。それと」

「まだあるのか?」


 もう面倒ごとは充分だという顔をしているキコリに、シャルシャーンはハハッと笑う。


「ま、気を付けたまえ。面倒ごとはこれからどっさり降りかかるぞ。確実にね!」


 パチンとシャルシャーンがカッコつけたポーズで指を鳴らせばその姿は掻き消え……ドドとオルフェが「ううっ」と声をあげ起き上がる。

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